その後、瀬取りに対する警戒監視活動には各国海軍等の艦艇も加わり、同省のホームページによると、24年11月末までに公表した監視活動は80回以上に及んでいる。
航空機による監視活動には日米のほかに豪州、カナダ、ニュージーランド、フランスが参加し、艦艇による監視にも日米のほか英国、豪州、カナダ、フランス、オランダが名を連ねている。日本を除けば、いずれも朝鮮国連軍の参加国で、航空機は国連軍地位協定で使用が認められている嘉手納基地を拠点に活動し、艦艇は同協定で使用できる在日米軍の横須賀と佐世保の海軍施設に寄港しながら活動を続けている。
これらの活動は米インド太平洋軍隷下で、横須賀を母港とする米第7艦隊旗艦「ブルーリッジ」の調整所でコントロールされているとされ、各国の艦艇は瀬取り監視のために東シナ海と南シナ海を行き来する際、「航行の自由作戦」として台湾海峡も通航している。
瀬取り監視と航行の自由作戦――。同協定を根拠とした多国間の行動こそが、北朝鮮だけでなく、国際法を無視して南シナ海と東シナ海を自国の管轄権がおよぶ海域と主張し、周辺国を軍事的に威圧する中国の独善的な行動を抑止する枠組みにほかならない。
だが、瀬取りの監視は全会一致の安保理決議だったにもかかわらず、中国は22年4~5月、監視飛行する豪州軍とカナダ軍の哨戒機に対し、戦闘機を急接近させ、レーダーを麻痺させるアルミ片を放出するなどの妨害行為を繰り返したほか、23年10月にも、中国軍の戦闘機がカナダ軍の哨戒機に5メートル(m)の至近距離にまで接近し、カナダ軍機が退避行動を余儀なくされる事態が発生している。
さらに24年5月には、黄海の公海上で哨戒中の豪州海軍のヘリコプターに対し、中国軍の戦闘機が照明弾を投下する危険行為を実施、6月にはオランダ海軍のフリゲート艦が、南シナ海から台湾海峡を航行する際、戦闘機を含む3機の中国軍機から急接近や上空旋回といった嫌がらせを受けている。
妨害を受けた各国は直ちに中国政府に抗議しているが、中国外務省は「国連安保理決議の履行を装い、意図的に中国の領空に接近し、中国の海上および航空の安全を危険にさらしている」などと反論している。
さらに中国は11月、ロシアとの共同飛行を東シナ海から日本海で実施、両国軍とも核搭載可能な戦略爆撃機や戦闘機など10機を飛行させている。中露の共同飛行は19年以降9回目で、その数日後には、ロシア海軍のキロ級潜水艦が沖縄・与那国島と西表島間の接続水域を浮上したまま航行しているのが確認された。
防衛省によると、この海域でロシアの潜水艦の活動が確認されるのは初めてで、「南シナ海から日本海に向かう途中だが、航行する必要のない海域であり、航行していることを見せつけることで、台湾海峡で『航行の自由作戦』を実施する国々への警告だ」(元自衛隊幹部)と指摘。多国間協力に対抗するためにロシアが中国に協力した行動だったようだ。
妨害や威嚇が繰り返されるということは、それだけ中国が嫌がっているという証でもある。参加するオランダ軍は「インド太平洋航路の安全確保は欧州にとって重要な課題だ」と主張しており、日本にとっても国連軍地位協定に基づき、多くの同志国が東シナ海や台湾海峡に艦艇や航空機を展開させることは、最大脅威である中国の行動に目を光らせる最良の手段と言ってもいい。この多国間協力を継続させることこそが、日本の安全、そしてこの地域の安定に直結すると確信する。
石破茂首相は自らのアイデアという“アジア版NATO”の可能性について、自民党内で検討させる方針のようだが、既にこれほど有益な多国間の枠組みがあり、数年前から各国が自発的に連携協力し、地域の安定に注力している現実を直視してもらいたい。その上で国民に対し、日米を中心とする現下の活動の有用性を説明し、理解を得る必要がある。