衆議院選挙では自民・公明が過半数割れし、今後の国会運営は波乱と不安定が予想される。続いて兵庫県知事選では大方の予想を覆して斉藤元彦知事が再選した。
これらの選挙を通じて明らかになったのは、世論の動向では①従来から続く権力や権威の否定、②シルバー層重視の政策に対する若年層の疑問、そして選挙の方法では③既存のメディアに比べたSNS等インターネットの破壊的ともいえる波及力、④公職選挙法が想定しない選挙利用ビジネスの出現――などである。
これに対して既存の権力やメディアの危機感は薄いように感じられる。選挙制度の改革も動きが遅い。従ってこのまま行くと、来夏に実施される都議選・参院選ではさらに大きな地殻変動が発生する可能性がある。
それは時代の変化の反映であってかまわないという考え方もありうるが、問題は、感情的に対立を煽るような言動がこのまま増幅していくような日本社会であってよいのかということである。
上記の世論の動向面すなわち?従来から続く権力や権威の否定、?シルバー層重視の政策に対する若年層の疑問などは有権者の判断だが、選挙の方法すなわち?既存のメディアに比べたSNS等インターネットの破壊的ともいえる波及力、?公職選挙法が想定しない選挙利用ビジネスの出現という2点についてはその悪用を防ぐ手だてを講じる必要があるのではないか。
SNS等インターネットの問題点は従来から指摘されてきたが、これが選挙において真偽不明の言説の氾濫をもたらし、さらにそれを収益目的で悪用できる状態を放置すれば、民主主義の根幹たる選挙の公平性を害することになる。公開の議論と早急な対策が必要ではないか。
兵庫県知事選において一つの陣営のアカウントが複数回、不当に停止されることがあったと報道された。この出来事は、問題のある投稿に対する指摘が多数寄せられるとそのアカウントが一時停止される機能はインターネットの世界では必要なことだが、正しくは機能していないことを示している。
一方では真偽不明の情報がSNSによって大量に流され、投票行動に大きな影響を与えたのではないかという議論もなされている。これについてもチェック機能が正常に働いていないのではないかという議論を呼んでいる。
公職選挙法第142条の7は「選挙に関しインターネット等を利用する者は、公職の候補者に対して悪質な誹謗中傷をする等表現の自由を濫用して選挙の公正を害することがないよう、インターネット等の適正な利用に努めなければならない」と定めている。
これついては厳密なチェックがされなければならない。これらのチェック機能についてはAIによるチェックには一定の限界があり、マンパワーの充実が必要とされているが、チェックが行き過ぎることによる弊害、チェックが恣意的になる弊害もありうる。言論の自由とチェック機能との関係はきわめてデリケートである。
代案として、新聞やテレビ・ラジオに要求されている選挙に対する中立性の要求を外すという考え方がある。日本の新聞は自主的に定めた新聞倫理綱領で「正確かつ公正」な報道を基本としている。テレビやラジオは放送法によって「政治的に公平であること」が要求されている。
そのため特に選挙が始まると、新聞・テレビ・ラジオが特定の候補者による過去の不祥事や疑惑に関する報道が途端に激減し、一方ではSNSによる一方的な情報が拡散するという現象が生じている。
しかし公職選挙法第148条は「この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定は、新聞紙(これに類する通信類を含む。)又は雑誌が、選挙に関し、報道及び評論を掲載するの自由を妨げるものではない。但し、虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない」と定めている。