また、長期の視点に立ち、優れたイノベーションを生み出すためには土台が重要だ。合田氏は「日本人は真面目で、学力も高く、発展できる土壌は備わっている。多様な研究ができる環境を整え、土台を強化していくべきではないか」と話す。
企業活動でも同様だろう。小泉氏の指摘する次の考えが参考になる。
「企業での研究も同じで、これまで『役に立たない』と思われてきた倫理などの問題をおろそかにしてきた会社は、今、そのツケにより危険な状態に陥っている。それは最近、ドイツの気鋭の哲学者、マルクス・ガブリエルによっても一つの倫理資本主義として指摘されている。目の前のことばかりを追い求めていては、バブル崩壊後の停滞からはどの企業も抜け出せない。将来方向にお手本があった時代には、日本特有の改良や改善が効率化に功を奏した。
しかし、今のように先が見えない時代には、短期間で『役に立つ』ことばかりに注力せず、土台となる基礎部分から長期の目線で投資していくことが必要なのではないか。
生成AIにしても、最近になってChatGPTが出現するまで多くの基礎研究があった。価値に気付く前の芸術作品と同じように、数十年の下準備の期間中は、AIがこれほどのインパクトを与えることは考えられなかった。だが、大きな価値が誰の目にも見えたとたんに、世界の大企業が一斉に投資を始め、商品も多数世に出ることになった」
今、研究開発に求められていることは、昭和の時代のキャッチアップ型モデルではなく、非連続的な進展や価値を生むものだろう。短期的な利益ばかりを求めず、長期の視点に立ち、将来の日本を見据えて、まずは土台を強化しなければならない。