〈インターネット時代の書店の生き残り策〉オンライン書店との“共存”から図書館とのハイブリッド戦略まで

2024.10.30 Wedge ONLINE

 今後、電子書籍は本格的な普及期に入り、さらに書店の経営環境を変えるだろう。現在はコミックが中心だが、いずれ全ジャンルに拡大する。紙の本に愛着を感じる人はまだ多いと思われるが、これからはそうとばかり言っていられないだろう。根拠は3つある。

 1つ目は、音楽配信サービスの浸透ぶりと同じような経緯をたどると考えられる。既にコミックについては電子媒体で読む習慣が浸透し、紙に対するこだわりは弱い。90年代に週刊コミック誌に慣れ親しんだ世代が年齢を重ね、いまやコミック全体の読者層は40歳代までに広がっている。電子書籍に抵抗がない層が主流派になる。

 2つ目は老眼だ。総務省「人口推計」によれば、概算値ベースだが24年8月1日に50歳以上の人口が半分を超えた。老眼は40歳前後に兆候があらわれ50歳を過ぎる頃にはほとんどの人が自覚する。文庫本の販売数が激減しているのも老眼と無関係ではないだろう。

 紙面の文字が小さくて読めないときには拡大鏡を使うが、タブレット端末の画面を指2本で拡大するほうが簡単だ。新聞も一度電子版に変えると紙の新聞の字面を追うのが苦痛になる。

 3つ目は書棚の問題である。読書を趣味とする人でも、自宅に紙の本を置く場所がないと新しい本を買うのに躊躇する。都市部のコンパクトなアパートやマンションに住む人にとって書棚の問題は切実だ。買った分だけ捨てればよい話ではあるが、本好きにとって本を捨てる、あるいは売却するのは忍びない。そうした困りごとにも電子書籍なら応えてくれる。

 置き場所に関連して、電子書籍には持ち運びしやすいというメリットもある。外出先や旅先で読むために、以前は鞄に文庫本を入れたものだが、鞄が重くなるのでせいぜい数冊だ。それに対し、スマホやタブレットに電子書籍を入れておけば何冊持っても重くならない。まるで書棚ごと鞄に入れるようなものだ。

図書館の現状と課題

 書店と同様に?リアルな本?が読める図書館の状況についても振り返ってみたい。図書館は23年に3310館あり、30年前の1.6倍になった。蔵書冊数は約4億6699万冊で、この30年で2.4倍。図書館数は2000年代までは増加基調にあったが、この15年程は落ち着いている。

 新刊本中心の品揃えの書店に対し、図書館の蔵書は新刊本に限らない。また、図書館は買うほどではないが読んでみたいというニーズに応えている。

 街の図書館の今後のあり方について再考を促しそうな環境変化が「国立国会図書館デジタルコレクション」の登場である。22年5月に始まった「個人向けデジタル化資料送信サービス」(個人送信サービス)によって、絶版のものを中心に図書、雑誌、博士論文の約205万点が自宅のPCで閲覧できるようになった。本を探すにしても、タイトルだけでなく全文検索の対象になっているものが多い。

 論文の参考文献欄に列挙されている本を探したいとする。デジタルコレクションに存在し、著作権切れ、あるいは個人送信サービス対象であれば自宅PCで閲覧できる。対象外であっても、全国7400以上の図書館の蔵書を横断検索できるサイト「カーリル」で自宅が属する都道府県内の図書館を検索すれば目的の本にたどり着く。

 自宅に居ながらにして目当ての本を閲覧できる国立国会図書館の個人送信サービスによって、近隣の図書館で本を探す機会が減った。図書館がカバーする範囲は、文献調査から教養、学習そしてレクリエーションまで幅広いが、文献調査に関しては国立国会図書館のウェイトが高くなったのが実感だ。専門分野に限れば街の図書館のレファレンスサービスの機能は国立国会図書館のオンラインサービスでカバーできるようになった。