【韓国軍が北朝鮮へ挑発行為か】休戦協定破る平壌上空での無人機飛行の可能性、北朝鮮調査報告書を読む

2024.10.29 Wedge ONLINE

 北朝鮮の公式メディア「朝鮮中央通信」は10月28日、国防省スポークスマンによる「大韓民国発の無人機による厳重な主権侵害挑発事件の最終調査結果発表」を報じた。その内容は、10月8日に北朝鮮領空に侵入し、その後、同国で捕獲された無人機を解析したもので、具体的な飛行経路図や座標など詳細に及ぶ。

平壌市内で発見された無人機の残骸(出所:朝鮮中央通信)

 北朝鮮の発表によると、無人機には2023年6月5日から今年10月8日までに作成された238の飛行計画と飛行履歴が記録されており、10月8日を除く飛行経路は全て韓国上空だという。つまり、昨年6月から韓国国内で訓練飛行などを行い、10月8日に北朝鮮に向けて送り込まれたというわけだ。

 発表は、10月8日の飛行経路を具体的に伝えている。同日23時25分30秒、北方限界線(NLL)に近い韓国の白翎島を離陸した無人機は黄海を北上し、北朝鮮の主要港湾都市である南浦市の沖合で平壌方向に針路を変え、離陸から約2時間後の9日1時32分8秒に外務省庁舎と地下鉄の勝利駅、1時35分11秒に国防省のそれぞれ上空で宣伝ビラを散布したという。

 また、飛行制御モジュールを解析した結果、目標位置に到達するとビラ散布機器に電気信号が送られる仕組みになっていたともいう。

韓国軍ドローンと酷似

 これまで北朝鮮は、10月3、9、10日の3日にわたり、無人機が平壌上空を飛行して宣伝ビラを散布したと主張していたが、筆者は当初、平壌上空に飛来した無人機は韓国軍が送り込んだものではなく、脱北者団体や保守系団体によるものだとみていた。

 その大きな理由は、韓国軍が北朝鮮の上空を含む領域に侵入することは、休戦協定に違反するからだ。

 北朝鮮が無人機の侵入を報じた際、筆者は旧知の元韓国軍情報将校に「韓国軍の無人機なのか」と尋ねたところ、次のような回答を得ていた。

 「韓国軍が北朝鮮上空を飛行することは停戦協定で禁止されており、偵察機も38度戦ぎりぎりの高高度から偵察している状況だ。もし、韓国軍が無人機を北朝鮮に送るとなれば大統領の承認とともに、米韓連合軍司令官(国連軍司令官と在韓米軍司令官を兼任)の承諾がいる」

 しかし、北朝鮮が発表した情報から、平壌上空を飛行した無人機は韓国軍のものであった可能性が大きい。その理由は、大きく3つだ。

 一つ目の理由は、北朝鮮で捕獲された無人機の外見が、韓国軍のドローン作戦司令部が運用する「遠距離偵察用小型ドローン」(以下「韓国軍ドローン」)に酷似するということ。ドローン作戦司令部とは、22年12月に北朝鮮の無人機がソウル上空に侵入したことを受けて創設された各種ドローンを運用する部隊だ。

 上述の韓国軍ドローンは、昨年9月に韓国軍創建75周年を記念して行われた軍事パレードで初めて公開されたソンウエンジニアリング(SWE)社製の「S-BAT」と呼ばれる機体を指す。朝鮮中央通信は捕獲した無人機と軍事パレードで公開された韓国軍ドローンの写真を掲載している。

昨年9月の軍事パレードで公開された遠距離偵察用小型ドローン(下)は平壌市内で発見された無人機と酷似している(出所:ともに朝鮮中央通信)

 韓国国会の国防委員会に所属する議員は、韓国軍ドローンの諸元を「時速140キロメートル(km)、最大離陸重量16.5キログラム(kg)、最大飛行時間4時間、最大搭載燃料4リットル(L)」と説明しているので、単純計算で560kmは飛行できることになる。

離発着は基地の近く

 二つ目の理由は、無人機が韓国の白翎島(ペンニョンド)に離着陸するようにプログラムされていたことだ。白翎島とは、NLLを挟んで北朝鮮と向かい合う韓国最北の島。ここから無人機が離陸し、プログラムされた経路を飛行して帰投するまでの距離は約430kmなので、韓国軍ドローンも飛行することができる。