かつて「ホスピスは建物ではない、哲学である」と言った人がいた。「哲学」とまで大上段に構えなくても、家庭医は患者・家族の意向と必要性に応じて柔軟に、実際的な対応ができるように心がけている。
私のかつての同僚で大学院博士課程を修了間近の家族支援専門看護師が、家庭医が行う緩和ケアについて研究し、その論文が最近出版された。
それによると、日本プライマリ・ケア連合学会が認定した家庭医療専門医307人の中で、305人(99.3%)が緩和ケアを必要とする患者を診療し、285人(92.8%)の家庭医療専門医が緩和ケアに関するトレーニング経験があった。そして、対象となる患者が抱える疾患は、がん92%、認知症・フレイル74%、肺疾患45%、心臓病40%、脳血管疾患33%、神経難病30%、腎臓病23%、肝臓病16%、筋骨格系8%、膠原病7%などと幅広かった。
このように、日本でも家庭医療専門医の多くが、緩和ケアに関するトレーニングを経て、幅広い疾患をもつ患者に対して緩和ケアを実施していることが伺えたが、今回のこの研究は、参加してくれた家庭医療専門医の自己評価による緩和ケア実施の現状についてのいわばスナップショットである。
その緩和ケアが患者・家族にとって実際どう役に立ったのか。そうしたケアの質について評価する研究も今後必要で、そのフィードバックによってさらに専門研修での緩和ケアのトレーニングが改善されていくことが望まれる。
24年7月31日、厚生労働省は「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」が取りまとめた報告書『かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に向けた議論の整理』を公表した。
これは、地域の診療所・病院がある程度のプライマリ・ヘルス・ケアを担えるようになるために、自らの医療施設としての「かかりつけ医機能」の有無について報告を求める制度作りである。
今回決まった主な報告事項は、 かかりつけ医機能に関する研修の修了者の有無、総合診療専門医の有無、そして17の診療領域(下記)ごとの一次診療の対応可能の有無となっているが、肝心のかかりつけ医機能に関する研修内容についても、一次診療で対応できる頻度の高い40程度の疾患についても、明記を避けて「改めて検討する」と先送りされた。
こうした制度設計は、日本に標準的な専門研修を修了した家庭医・総合診療専門医が十分増えるまでの移行期においては必要な制度と言えるが、例えば、緩和ケアが必要になった患者と家族の目線で見た場合、このような曖昧さで報告された「かかりつけ医機能」が頼りがいのあるものとして映る可能性は低いだろう。結局、どの医療施設で相談したら良いか、迷ってしまうに違いない。
ただ、この分科会の報告書では「2040年頃までを視野に入れた人口動態・医療需要」として「自宅や高齢者施設を含め、看取り・ターミナルケアを行う機能」を確保することが一層重要となるのはないか、という議論は報告書に記録されているので、さまざまな専門職からなるチームと連携して緩和ケアができることも「かかりつけ医機能」に含まれるよう検討してほしい。
もちろん、高齢者の看取り・ターミナルケアだけが緩和ケアではないことの理解も進んでほしい。
「お兄さんと兄嫁さんは『緩和ケア』科の医師の診察を受けることをどう思っているんでしょうね」
「あ、『まずは今の気持ちを聴いてあげること』、家庭医の教訓ですね」
「覚えていてくれて嬉しいです(笑)。『緩和ケア』科の医師がお兄さんのかかりつけ医ともしっかり連携してくれると良いですね」