【ネットの情報は自由であるべきか?】テレグラム創業者逮捕が示唆したこと、オンラインサービス事業者は「たんなる通信路」ではない

2024.09.14 Wedge ONLINE

 テレグラムの創業者であるパベル・ドゥーロフが経由地として訪れたフランスの空港で、フランス当局によって逮捕された。本稿執筆時点で、保釈金を支払い保釈されているとのことであるが、フランス国外には出ることはできず、囚われの身にある。

テレグラム創業者の逮捕はインターネット上の情報に対する考え方の転換を表している(ロイター/アフロ)

 テレグラムとは世界中で使われるメッセージングアプリである。2013年にパベルとニコライのドゥーロフ兄弟が立ち上げた。

 特徴はシークレットチャットとよばれる機能を使うと、管理者ですらユーザーのメッセージを読むことができないという秘匿性の高さにある。その秘匿性の高さ故に、反政府活動家や人権団体などはもちろんのこと、テロリストや犯罪者が好んで使う。

 フランス当局は、テレグラムを使った児童ポルノの拡散などの疑いで、ドゥーロフの取り調べを行っているとのことである(パリ司法宮 2024)。

テレグラム側は自信失わずも、変わる世界の評価

 フランスに留め置かれているとはいえドゥーロフは意気軒昂である。勾留後もテレグラムを用いて、自らが透明性確保のために最大限努力してきたこと、逮捕が不当であることを、アピールすることに余念がない。

 とりわけ「テレグラムが特定の国の政府にとって許容できないものなのであれば、その国において使用を禁止すれば良い。テレグラムはそうやって過去にロシアを捨てたし、(フランスから)追放されたらそれを受け入れる準備はあった」とのコメントは、ドゥーロフの本音ではないだろうか。フランス政府が、フランス国内でのテレグラムの使用を禁止するのではなく、自身の身柄を勾留するという手段を選ぶことを想定していなかったようである。

 この件についての周囲の受け止めは多様である。ロシア政府は「慎重な捜査を求める」 とコメントし、加えてドゥーロフへの領事面会を希望している。対して、フランスのマクロン大統領は、これがあくまでフランスの捜査当局が主導するものであり、政治的な意図がないことを強調する。

 X(旧ツイッター)を経営するイーロン・マスクや、エドワード・スノーデンらは、今回の勾留がオンラインでの表現の自由を傷つけるとして明確な抗議の声を上げた。ただドゥーロフを擁護する声は少ない。

 日頃から、各国の当局による言論の弾圧などを舌鋒鋭く批判している、オンラインでの人権保護などの活動を行うアクセスナウというNPOがある。彼らも、ドゥーロフ逮捕に際して声明を発表したが、勾留自体は好ましくないとしながらも、テレグラムが「著しく透明性を欠いていて、関係当局との適切な協調を行っていない」とし、フランス政府の行動に一定の理解を示している(Access Now, 2024“Access Now’s Statement on Telegram CEO Pavel Durov’s Detention.” Retrieved September 9, 2024)。その道に明るい人権団体ですら、本件を不当な逮捕とは言い切れないほどに、テレグラムでは違法有害な情報が飛び交っていたということである。

転換期にあるネット上の情報への考え

 ドゥーロフの勾留、あるいはブラジル政府がXの使用を禁止するなど、オンラインサービス事業者と民主主義国家との間の緊張が高まっている。これらの出来事はインターネット上の情報の流れが転換期にあることを、改めて浮き彫りにしている。

 これまで「自由で開放的な」インターネットが求められてきたが、今後は「安全で信頼に足る」インターネットが優先されるようになる( Fick, Nathaniel, Jami Miscik, Adam Segal, and Gordon M. Goldstein. 2022. Confronting Reality in Cyberspace: Foreign Policy for a Fragmented Internet.)。前者の精神を象徴する1996年の米国の通信品位法230条、および後者を実現しようと2024年に欧州で発効したデジタルサービス法、2つの法律の内容に、我々が目指した世界と、今後目指す世界が明確に示されている。