米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手の活躍がめざましく、日本国内でも連日、大々的に報じられている。昨年9月の右肘手術の影響で打者に専念する今季は史上最速での40本塁打、40盗塁(40―40)を達成し、史上初の「45―45」が目前に迫る。さらに先には「50―50」も視界にとらえつつある。
そんな大谷選手については、メディア関係者と話をしていても、「記事のニーズが高い」とよく耳にする。新聞の発行部数が右肩下がりで落ち込む中でも、多くのメディアが米国へ記者を派遣し、現地から積極的に大谷選手に関連する記事を配信するのもこのためだ。
一方で、新居を特定できるような放送をしたテレビ局や、一流のメジャーリーガーである同僚たちに大谷選手に関する質問ばかりをぶつける日本メディアの“過剰”な取材を憂うる意見も出てきている。
ナ・リーグ西地区の名門、ドジャースはレギュラーシーズンの地区首位を走る。高額年俸の選手が並ぶオーダーの中でも、プロスポーツ史上最高額である10年総額1000億円超で契約した大谷選手の存在は際立つ。
筆者も含めて、日本国内で大谷選手に関する現地からのニュースを楽しみに待つ読者、視聴者は多い。インターネットサイトの「Yahoo!ニュース」のアクセスランキングでも上位の常連となっている。
大谷選手が試合前後などに球場で取材に応じる際は、現地で取材する全ての記者が集まり、その中での質疑応答は共有される。メジャーでは試合前後、選手たちが滞在するロッカーなどがあるクラブハウス内でメディアは取材をすることが許可されるが、大谷選手に日本メディアが群がることを避けるため、大谷選手は別途、こうした取材の機会を設けている。いわゆる「囲み取材」になるのは、個別に全てのメディアに対応することが難しい中で、可能な範囲で日本のファンにもコメントを届けようという配慮からだろう。
これは大谷選手に限ったことではなく、メジャーに在籍した(する)日本人選手の取材対応としてよく取られる手法だ。
一方で、現地の記者たちは、日本国内の本社で記事を待つデスクなどの上司からせっかく高い出張旅費を払って派遣しているのだからと、“独自”の記事を期待される。大谷選手への個別のアプローチが難しい中で、“独自”路線を求めて行きすぎた取材として問題になったのが、新居報道だといえる。
大谷選手に関する取材の中で、球場内での“過剰”な報道に警笛を鳴らす識者もいる。
明治大学の廣部泉教授(歴史学)は8月23日配信のWedge ONLINEの記事「【日本人の顔が見えない!】アメリカ社会で低下する日本の”存在感”、このままでは日本の歴史も捻じ曲げられる」の中で、米国社会での日本人の存在感を高める人物として大谷選手を取り上げ、「大谷翔平選手に希望的未来像をみることができる。力や大きさを貴ぶ米国人にとってわかりやすいスーパースターである彼は、貴重な存在だ。また大谷選手は勤勉の美徳を通じて日本人に対する共感を醸成し、よきチームメイトの一人として尊敬を集めている」と評する。
その上で、「だが、日本のメディアはチームメイトなどにしつこく『大谷をどう思うか?』といった質問ばかりをし続けている。はじめは素直に『大谷は素晴らしい』と答えてくれていた彼らもだんだんと疎ましく思うのではないだろうか。日本のマスコミが疎まれるだけならまだよいが、大谷選手が疎まれるような存在にならないか、筆者は心配でならない。日本人としてやるべきことは、大谷選手のような日本人の『顔』となっている日本人が、活躍できる環境を整え、一人でも多くの米国人、米国社会に、日本への関心や共感をもたらすようにしていくことではないだろうか」と指摘する。