〈ウォルズ副大統領候補の実力は?〉売りは「中西部の気さくで平凡なアメリカ市民」、ハリスを後押しする訴求力とは

2024.08.20 Wedge ONLINE

 今回、ハリス氏は全米最大州カリフォルニアという民主党地盤の州出身の大統領候補であり、他州でも得票数で有利なところが多いが、勝敗は南部、中西部接戦州の選挙人獲得数次第で決まる。この点、とくにウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア3州でアピール力のある人物を副大統領候補に当てる必要があった。

 そこで、ハリス氏は計算ずくでウォルズ氏を選んだ。彼はその経歴が示す通り、中西部の平均的白人家庭の象徴的存在であり、とくに労働者階層の中での信頼が厚い」

 全米最大の労組「アメリカ労働総同盟・産業別組合会議」(AFL-CIO)のアンジェロ・フェリト・ペンシルベニア支部長も、ウォルズ氏の中西部における訴求力について、次のように評している:

 「彼は、ブルー・カラーの労働者が一緒にビールを飲み、釣りに出かけたりしたくなるような、きさくな人柄だ。ミネソタ州知事時代には、建設労働者の有給休暇制度、就労現場の安全徹底、公立学校教師の待遇改善などで目覚ましい成果を挙げた……政治家にしては珍しく株を保有しておらず、知事の報酬引き上げも固辞するなど、質素な暮らしぶりも好評を博している……まさにミドル・アメリカの代表的人物だ」

世論調査の結果は

 今のところ、ハリス陣営のこの目論見は、一定の効果を生みつつあるようだ。それを示唆するのが、最新のいくつかの世論調査結果だろう。

 世論調査機関「Ipsos」が去る8月8日、激戦州7州(ミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ジョージア、ノースカロライナ、アリゾナ、ネバダ)で選挙登録を済ませた有権者を対象に実施した支持率調査によると、ハリス氏(42%)がトランプ氏(40%)を2ポイント差で初めてリードしていることが明らかになった。

 続いて同月10日、ニューヨーク・タイムズ紙がシエナ・カレッジと合同でミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシン3州の有権者に絞って調査したところ、3州のいずれにおいても、ハリス氏支持率が50%に達したのに対し、トランプ氏は3州とも46%にとどまり、ハリスが4ポイント差で優位に立った。

 上記2つの世論調査実施に先立ち、ハリス・ウォルズ正副大統領コンビは、ペンシルベニア(6日)、ミシガン、ウィスコンシン(いずれも7日)3州を遊説で訪れたが、3カ所の演説会場とも1万人以上の支持者たちで超満員となり、熱狂的歓迎を受けた。とくにウォルズ氏の的を絞ったトランプ攻撃の巧みな弁舌は、万雷の拍手と歓声を巻き起こした。

 米マスコミの多くは、とくに1カ月前までトランプ氏にリードを許していたこれら激戦州3州において、揃って形勢が逆転し始めたことについて、ハリス氏のアピール力もさることながら、ウォルズ氏の中西部での根強い人気によるところが大きい、との見方を伝えている。

 ハリス氏優勢を伝える世論調査動向は、その後も続いている。政治分析機関として定評のある「Cook Political Report」が8月14日、公表した上記激戦7州調査結果でも、ハリス氏(48%)がトランプ氏(47%)より優位に立っている。

 去る5月時点でトランプ氏支持率は、バイデン氏相手に3%上回っていた。しかし、民主党正副大統領候補がハリス、ウォルズ両氏に入れ替わったことで、トランプ氏はその後、3カ月程度で激戦州の支持を4%も減らしたことになる。

ウォルズ氏の?弱点?

 ウォルズ氏に弱みがないわけではない。

 その一つが軍歴をめぐるもので、共和党のJ.D.バンス副大統領候補は、ウォルズ氏が陸軍国家部隊に入隊中の2000年代初め、所属部隊のイラク派遣が決まった数カ月後に連邦下院議員選に出馬するため退役したことをやり玉に上げ、「彼は戦場で自分の部隊を見捨てた」と非難している。