投票日まで3カ月を切った米大統領選でハリス・ウォルズ民主党正副大統領候補の旋風が止まらない。中でも、アメリカの“ハートランド”中西部で、工場労働者や農村部白人層の支持を着々と広げつつあるウォルズ候補の気さくで実直な人柄、熱弁ぶりが共感を呼んでいる。
「彼こそスモール・タウン・アメリカの体現者」――。副大統領候補に指名されて以来、一躍脚光を浴び始めたウォルズ・ミネソタ州知事について、多くの米マスコミの間でこんな評価が定着しつつある。
「スモール・タウン・アメリカ」とは文字通り、工場労働者、農業従事者、商店経営者など中産階級が圧倒的多数を占める中西部諸州の典型的田舎都市の精神風土を指す。
金曜日の夕刻、学校のフットボール試合でプレーするわが子の声援に家族で出かけ、日曜日朝は教会に通い、帰りはピザ・レストランでランチといった素朴でのどかな白人家庭の暮らしぶりに象徴される。
筆者はかつて、オハイオ州デイトン(人口14万)に野球のマイナーリーグ開幕戦取材に出かけた際、その典型ともいうべき光景を目のあたりにしたことがある。
ランク付けで最下位の「1A」に属する弱小チームにもかかわらず、球場は定員をはるかに上回る8700人もの熱心な地元チームファンで埋め尽くされ、試合終了まで歓声がこだまし続けていた。観客の9割以上が白人だった。
「これがスモール・タウン・アメリカというものです」。インタビューに応じた球団社長の自信たっぷりの説明がはっきり脳裏に焼き付いている。
こうした中西部の市町村は、政治的には保守的で、有権者に共和党支持者が多く、11月大統領選ではトランプ候補もそのブロック票に期待を寄せる。その共和党地盤にくさびを打ち込もうとしているのが、まさにウォルズ民主党候補だ。
ウォルズ氏は、ミネソタと境界を接するネブラスカ州の人口わずか300人の小さな町の農家に生まれ育ち、地元の中学、高校を経て陸軍国家警備隊に入隊、その後は、ミネソタ州に移り、高校教師兼フットボール・コーチなどを務めたのち、州知事就任前の2007年から18年まで連続6期連邦下院議員としても活躍した。
今回、こうした経歴の中で中西部の有権者の間でとくに声望高いのが、「農家育ち」「24年の軍歴」「高校教師」そして「フットボール・コーチ」であり、これらはいずれも「スモール・タウン・アメリカ」の代名詞にほかならない。
実際に、去る8月6日、ウォルツ氏が副大統領候補として正式に選挙活動を開始して以来、各地の遊説先会場では、多くの熱心な支持者たちが同氏に敬意を表し「COACH!」「SCHOOL TEACHER」などと大書きした歓迎プラカードを掲げるシーンがたびたびTVニュースで放映されている。
ハリス氏の副大統領候補については、直前まで、マーク・ケリー上院議員(アリゾナ州選出)、ジョシュ・シャピロ・ペンシルベニア州知事、アンディ・ビシア・ケンタッキー州知事らが最有力視されてきた。しかし、ハリス氏個人および選挙参謀は最終的に、ウォルズ氏に白羽の矢を当てた。
その理由と背景について、歴代米大統領選挙問題に詳しいバーバラ・ペリー・バージニア大学政治学部教授はTVインタビューで次のように解説している:
「民主党は過去の大統領選で総得票数で共和党候補を上回っても、結果的に敗退したケースが少なくなかった。最近では、2000年そして16年大統領選挙でそれぞれG.W.ブッシュ、ドナルド・トランプ両共和党候補にホワイトハウスを明け渡した例がある。