<前途多難なイラン新大統領>「改革派」が必ずしも民意を通せない複雑な事情

2024.07.26 Wedge ONLINE

 イランの大統領選挙は、改革派のペゼシュキアン氏と強硬派のジャリーリ氏の決選投票となり、ペゼシュキアン氏が勝利した。第1回の投票をボイコットしたイラン国民がペゼシュキアン氏に投票すれば同氏が勝つ可能性があるが、イラン国民は体制に絶望しており、投票率は上がらないかもしれないという観測がもっぱらであった。例えばフィナンシャル・タイムズ(FT)紙の決選投票前の解説記事は、次のように書いていた。

大統領選挙翌日の会合で演説するイランのペゼシュキアン新大統領(AP/アフロ)

 改革派のアブタヒ元副大統領は、「改革派にとり(国民が選挙に行くよう)雰囲気を変えることは非常に難しいし、強硬派も、ライシ前大統領がやって来たことを正当化するのも難しい」と述べている。現実に最初の投票で強硬派は、自分達の支持者達を動員するのに苦労し、強硬派全体の得票は、ライシ大統領の選挙に比べて500万票も票を減っている。

 今回、得票率第3位のガリバーフ氏は、ジャリーリ氏支持に回ったが、改革派は、彼の支持者の一部はペゼシュキアン氏支持に回ることを期待している。しかし、いずれにせよ、「これはイカサマ・ゲームであり、予め結果は決まっている。投票では何も変わらない」と見なす国民もいる。

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 蓋を開けてみると、7月7日に行われたイランの大統領選挙の決戦投票では、ペゼシュキアン氏が1638万票、ジャリーリ氏は1353万票を獲得し、改革派のペゼシュキアン氏の当選が確定した。第1回の投票を多くのイラン国民がボイコット(投票率40%)し、決戦投票でボイコットした国民が投票すればペゼシュキアン氏が当選すると思われたが、この記事の指摘するようにイラン国民がイスラム革命体制に絶望していて投票率が上がらないのではないかと懸念されていた。ところが、結局、49.8%と投票率が上がり、ペゼシュキアン氏が当選した。

 前回の大統領選挙では選挙直前に保守強硬派の候補2人が立候補を辞退し、ライシ師への票の一本化が計られたが、今回、そのような努力は見られず、この敗北は、国民のイスラム革命体制への反感の強さを見誤った保守強硬派の驕りが招いたとも言える。

民意にも気を配るイスラム革命体制

 1979年に王制が崩壊した時にイラン国民は、社会民主主義等の選択肢の中からイスラム革命体制を選んだ。イランのイスラム革命体制は神権政治と言われるが、実は国民が選んだという矛盾を当初から抱えており、イスラム革命体制は民意にも気を配ってきた。

 ところが革命から40年以上が経って国民の体制離れがどんどん進む事態となり、あくまでもイスラム革命体制を堅持しようとする保守強硬派は、2020年の国会議員選挙以降、保守穏健派(イスラム革命体制の枠内で国民や国際社会と折り合いを付ける)、改革派(イスラム教を重視しつつも西欧型の民主主義を志向)を選挙の資格審査で排除して選挙を通じた民意を無視する態度に出た。

 今回の大統領選挙でも、事前の資格審査で残った候補者は、保守強硬派4人と改革派1人となり、投票前には、無名のペゼシュキアン氏が候補者に残ったのは、一応公平な選挙を行ったという形を整えるためなどと言われていた。

 その意味で、今回の決選投票の結果は、イスラム革命体制がどれだけ国民に嫌われているかを明らかにし、保守強硬派にとり大きなダメージだったことは間違いない。しかし、今更、保守強硬派が、国民が支持するイスラム革命体制に戻るはずがない。

改革派を阻む国内外の壁

 今後、神(正確にはイマーム)の代理人であるハメネイ最高指導者を戴く保守強硬派と国民の支持をバックとする改革派大統領の間で厳しいせめぎ合いが起きることは間違いないが、この改革派政権の前途は多難だと言わざるを得ない。