<中国の侵攻を撃退できるか>台湾がウクライナから学んだ防衛戦略、「トランプでも米台関係は盤石」

2024.07.25 Wedge ONLINE

 7月1日付けワシントン・ポスト(WP)紙は、「台湾がウクライナ戦争から学びつつあるもの」(What Taiwan is learning from the war in Ukraine )と題する論説を掲げ、兪大㵢・駐米台湾新代表とのインタビューを報じている。要旨は次の通り。

(ronniechua/ Iuliia Anisimova/gettyimages)

 ロシアのウクライナ侵攻とウクライナの反撃は、台湾で共感を得ている。益々戦闘的になる中国は台湾主権を一蹴し習近平は台湾再統一を自身の政治的正統性と結び付けている。

 習近平が台湾統一を試みる可能性は高まっているように見える。台湾は米国から軍事支援を得て真剣に対抗準備をしている。台湾大衆にとりロシアのウクライナ侵略は台湾が直面する危険に現実感をもたらしたと兪駐米代表は言う。

 昨年、台湾は防衛費を14%増額し徴兵期間を4か月から1年に延長、ウクライナと同様、非対称戦能力強化に努め、ウクライナ市民の抵抗と同様に台湾も社会全体の関与を検討している。兪代表は、「ウクライナから学んだ最大の教訓は、天は自らを助けるものを助けるということだ」と述べた。

 台湾を外交的に承認する国はほとんどなく、台湾は外交的に不安定な地位にあるが、米議会と歴代大統領は台湾を愛し現状を懸念している。バイデン大統領は任期中に既に15回対台湾武器供与を承認した。

 ウクライナと違い台湾支援には超党派的支持がある。兪代表は民主・共和両党の継続的支援に感謝を表明した。ウクライナ支援が台湾支援能力を制約すると心配する向きもある。

 議員の一部は、米国は中国の拡張主義防止に集中すべきだと主張している。兪代表は二者択一の必要性を認めず、米国は引き続き主導的地位にあり、異なるシナリオで異なる場所で異なる挑戦に対処する能力を持っていると述べた。

 台湾が中国の侵攻を撃退・抑止できるかの国際的影響は大きい。兪代表は、ルールに基づく秩序維持の重要性を指摘し経済リスクにも触れた。

 先進半導体の主導的生産者として台湾は世界経済の不可欠な歯車で無数の世界的供給網の中心だ。ウクライナ戦争は世界各地で食料・エネルギー価格高騰をもたらしているが、中国の侵攻がもたらす混乱に比べれば大したものでは無い。インド太平洋の紛争は一層醜いと兪代表は述べた。

 それに備えるために台湾と同盟国は、防衛能力や、ロシアのやったような侵略を中国がするのを防ぐ外交的了解を創設・強化する必要がある、と兪代表は述べた。習近平に毎朝起きるたびに鏡を見て「今日はその日ではない」と確実に言わしめる必要がある、と兪代表は結論付けた。

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兪新代表の経歴と着任後の動き

 前駐米台北経済文化代表処所長の蕭美琴は、民進党の頼清徳新総統の副総統候補となりワシントンを去った。彼女は陳水扁元総統に見いだされ民進党内で頭角を現した人物だ。

 蕭美琴は高校から母の祖国米国で学び、大学も米国。最終的にはコロンビア大学で修士を取得しており、英語・台湾語・中国語の全てがネイティブで、知米派と言って差し支えないだろう。在任中のワシントンでの人気は大変なものだった。

 一方、その後任として着任した兪大?は、元外交部次官のたたき上げの外交官だ。次官の後に駐欧州連合(EU)・ベルギー代表となり、昨年12月初旬にワシントンに着任。彼がEUと人脈を有するのは意味があるだろう。

 万一の台湾有事の場合には、欧州の支援を得ることの重要性を、米国に対して説得力を持って語れるであろうし、特に、トランプが大統領になれば米欧関係に一定の亀裂が生じることが予想され、その際台湾を巡って米欧の橋渡しの役割が必要になることも想定されるからだ。