クドカンが現代社会の矛盾に切り込む「新宿野戦病院」コメディで叫ぶ「命の価値」のメッセージ

2024.07.22 Wedge ONLINE

 「新宿野戦病院」(フジテレビ系・水曜夜10時)は、クドカンこと宮藤官九郎の代表作となる傑作コメディである。新宿・歌舞伎町にある経営が傾きかけた病院を舞台にして、「トー横」と呼ばれる、若者たちがたむろする現代の夜の街を俯瞰しかつ地べたをはうようにして現実を描いていく。

新宿・歌舞伎町の矛盾を笑いとともに描く「新宿野戦病院」(フジテレビHPより、以下同)

 天才・クドカンはインタビューのなかで、脚本家あるいは監督としての活動の画期となったのは東日本大震災後の東北と東京を舞台にした、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年)の脚本と監督を務めた映画「中学生丸山」(13年)だった、と語っている。後者は性に悩む中学生の団地での日常が背景にあって、実は知人だった人物が連続殺人犯だったという奇想天外のドラマである。

 いずれにしても、先行きに不安がたちこめていた列島を笑いと涙で吹き飛ばした傑作である。クドカンはつねに時代とともに歩んできたといえる。また、観客はクドカンによって救われてきた。

ネット時代の視聴者への「ツカミ」

 「新宿野戦病院」の第1話(7月3日)は、ドラマの冒頭から歌舞伎町で老人や若者を助ける、NPO法人「Not Alone」新宿エリア代表の南舞(橋本愛)が、スマーフォンを使った歌舞伎町の実況中継で「新宿は安全な街です。病院も5カ所あって緊急対応も万全です」と、街を紹介している最中にけんかが起こって南ははじき飛ばされる。けんかのけが人を病院に運ぶ救急車がかけつける。

 救急隊員がけが人を受け入れてくれる病院を探す。歌舞伎町にある「聖まごころ病院」しかないことがわかる。けが人は叫ぶ。「まごころはやめてくれー!」

 観客は一気にドラマの世界にひきずりこまれる。それはテンポの速さとか遅さとかいうことではない。「ツカミ」の問題である。

 NetflixやAmazon Primeなどのネット配信の本格時代の観客の視聴態度は激変している。1シーズンのドラマを毎夜2、3話観る。週1回のドラマを欠かさずに観る、録画をまとめて観るのはまどろっこしい。

 クドカンは大石静との共同脚本による、Netflix配信ドラマ「離婚しようよ」(23年)によって、早くもネット配信時代の呼吸を飲み込んだようだ。

 「まごころ」に運び込まれた元駐輪場の管理人・加地登(花王おさむ)の画像診断は硬膜下血種。「まごころ」院長の3代目・高峰啓介(柄本明)は外科医だが、老齢とアルコールの飲みすぎで手術ができず、病院の外科はままならなかった。患者の加地は専門の大学病院の手術が必要だが、大学病院も患者でふさがっていた。

曲者ぞろいのメンバー

 「まごころ」にその前にかつぎこまれていたのは、ヨウコ・ニシ・フリーマン(小池栄子)。歌舞伎町でテキーラの飲み競争で勝ちはしたが、急性アルコール中毒でベッドに横たわっていた。

 加地の容態を聴いて「自分が手術をする」と申し出る。彼女は米陸軍の軍医だった。しかし、日本の医師資格がないので本来は日本での医療行為はできない。

 院長の高峰(柄本)は、緊急事態と判断してヨウコに手術をゆだねる。高峰がかつて使っていたドリルなどの旧式の医療機器で硬膜下出血の手術に成功する。ヨウコは他の手術でも麻酔がまだ完全に効いていない段階で手術を開始したり、縫合が丁寧でなかったりするが、戦場でも時間が勝負という状況のなかでの経験を生かしていく。

日本での医師免許のない中で医療行為を行うヨウコ(小池、左)と性別不明の看護師長・堀井(塚地、中央)、美容整形外科ながら外科手術に従事する亨(仲野、右)と曲者ぞろいだ