<ロシア支援で立場が悪化>欧州で高まる中国への警戒 念願の北極航路開拓進まず欲求不満?

2024.07.16 Wedge ONLINE

 Economist誌6月20日号が、「中露のゾッとする北極政策」(China and Russia have chilling plans for the Arctic)という記事を掲げ、ロシアのウクライナ戦争への支援により、中国による北極海路開発に対する欧州の警戒が高まっており、開発は遅れ気味になっていると論じている。要旨は以下の通り。

(boykpc/gettyimages)

 北極圏のノルウェーの港キルケネスは将来重要な拠点になることを夢見ている。地球温暖化でこの港は中国から欧州への新航路の西端になる。

 ウクライナ戦争が続く中、この野望は今は非現実的で、中国の対露支援は同国の北極シルクロード計画への不信を強めているが、中国は引き続き北極地域の豊富な天然資源から裨益する機会を窺がっている。

 中国の北極シルクロード計画の実現時期は不明だ。北極航路を使えば上海―ハンブルグは18日、スエズ運河経由の35日、フーシー派攻撃を避けた喜望峰経由の45日に比べ相当短く、素晴らしい考えだと思われた。

 キルケネスは、中国からの貨物を他の船か鉄道に積み替え欧州市場に送ることを目論んでいる。最大の問題は欧州鉄道網との連結が無いことだ。50キロメートル(km)先のフィンランドとの間の鉄道建設の話はあったが、ウクライナ戦争発生以前からフィンランド政府はこの計画に冷たい。今や同国政府は、地政学的不安定性に鑑みロシア国境に近すぎる鉄道路線建設には反対だ。

 西側政府は中国の北極圏での活動を長く心配してきたが、ウクライナ戦争は中国の全ての大プロジェクトへの西側の心配を強めた。中国は中立と言うが、ロシアとの無制限の友好関係を謳いロシアの防衛産業を支援している。

 ウクライナ戦争は北極圏に領土を持つ8カ国の協議機関北極評議会の活動を凍結させた。中国は2013年に評議会にオブザーバー参加した。ロシア以外の評議会メンバーは今や全て北大西洋条約機構(NATO)加盟国で、中国は疎外感を感じているだろう。

 中国の欲求不満は明白だ。年初、2人の中国人ロシア専門家が、ロシアが北方で弱体化していると指摘した。北極圏での元々の力関係が西側有利に変わりつつあり、中国のイメージが害される危険がある。これは北極問題への今後の中国の関与にマイナスだ。

 今のところ、中国は北極ルート使用を強行しないだろう。船舶業者は予測可能性を好む。

 北極圏温暖化で北極圏航路の航行スケジュールは氷河と濃霧に大きな影響を受ける。しかし中国企業はロシアが西側市場喪失を補うためアジアに向かう結果、見返りはあると見ている。

 ロシアの港湾建設や石油・ガスプロジェクト、ロシア船舶建造への参加等だ。ロシアは北極海沿岸港湾整備への中国の関与を過剰と見ていたが、今や他の選択肢は無い。

 西側制裁のリスクもある。中国の研究者は政府に、北極を巡るロシアとの協力では注意深く目立たないよう求めるが、5月のプーチン訪中時に両国は、北極航路を国際輸送の重要な回廊として開発すると誓った。氷上シルクロードは滑りやすいが、いまだ魅力的なのだ。

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ウクライナ戦争の長期化で中露関係に変化

 1年ほど前、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙の「北極の寒気;中露の浸透の恐れ」と題する解説記事は、ウクライナを巡る緊張に乗じて中国とロシアが北極・天然資源への影響力を強める恐れがあると指摘していた。ウクライナ戦争の結果北極評議会へのロシアの参加を制限せざるを得なくなり、その結果、北極評議会の枠外で北極圏開発を巡り露中協力が進むのではないか、という論旨だった。

 当時から見ると、ウクライナ戦争の継続が、露中関係に必ずしも前向きな結果ばかりをもたらしている訳でないことがよく分かる。