日本では「戦力外通告」と訳されることがあるが、トレードやFAで新しい選手を獲得したり、マイナー選手を昇格させたりする場合などに、40人枠を空ける目的がある。
この場合、7日以内にトレードされるか、球団が保有権を放棄するためにウエーバー公示される。この期間に他球団が獲得を申し入れれば、年俸などの契約内容は、移籍先球団に引き継がれて移籍する。筒香の場合、ドジャースへトレードとなり、契約は引き継がれる。結果、年俸の大半はレイズが引き続き負担した。
マイナーに落ちるのは、獲得を申し入れる球団がなかった場合に筒香が降格を受け入れた場合で、FAになって新たな条件で移籍先を探すこともできる。どの状況でも、一度結んだ契約の年俸は保証されることになる。それだけ、メジャー契約の選手は守られる立場にある。
メジャー契約を結んでいる選手の中でも、契約内容の詳細は選手によって違う。
例えば、複数の米メディアによれば、大谷翔平選手がドジャースと10年総額7億ドル(約1015億円)契約した内容には、オーナーや編成本部長がチームを去った場合という条件付きで契約を破棄できる条項が盛り込まれていると伝えている。トレードを拒否できる権利なども含まれる。
他にもトップ選手の契約には、マイナー降格を拒否できる条項などもある。実力があり、獲得競争が激しい選手ほど条件もアップするのは、契約交渉では当然の流れである。
一方、藤浪投手は今季、メッツと1年335万ドル(約4億8600万円)で契約したが、マイナー降格を拒否できる条項が盛り込まれていなかったと報じられている。このため、40人枠には入っていても、マイナーに帯同させることが可能で、現在は3Aでメジャー昇格を目指している。
昨季、アスレチックスと契約したときには、不調でもマイナーに落ちることはなかったため、降格拒否などの条項があった可能性もささやかれた。結果としては、先発から中継ぎへの配置転換を命じられてもメジャーで登板のチャンスが与えられ続け、この中で一定の成績を残して、シーズン中にオリオールズへのトレードが成立した。
今季の置かれている状況は厳しい。
上沢はレイズとマイナー契約を結んでいたが、オープン戦4試合の登板で0勝1敗、防御率13.03とふるわず、開幕メジャー入りがかなわなかった。しかし、キャンプ終盤、他球団からメジャー契約の打診があった場合、レイズはメジャー契約か移籍を認めるかを選択しなければない条項を盛り込んでいた。
結果、レッドソックスが獲得に名乗りを挙げたことでトレードが成立した。しかし、メジャー契約とはいえ、藤浪と同様にベンチ入りメンバーを確約するものではなく、傘下の3Aに合流した。
好条件の契約は、選手が積み重ねた実績の対価である。強豪チームほど、補強で獲得する選手には好待遇の条項が組み込まれており、マイナーで実績を残しても、枠の関係でメジャー昇格の道が開けないことも多い。
実力だけではない要因も選手の入れ替えに影響することがあるのだ。成功を収めた選手が好条件の契約に守られるのに対し、このトップ選手の群れからこぼれ落ちると、はい上がるサバイバルは過酷なものとなるのが、アメリカ野球の現実である。
筒香がこうした厳しい環境に身を置くことになったのは、契約に見合うパフォーマンスを発揮できたなかったからだと言えば、それまでの話である。ただ、日本球界からのラブコールに応えて、好条件での移籍はいつでも可能だったはずである。
メジャーの舞台を目指し、マイナーや独立リーグで苦労を積み重ねた経験が、これからどう生きるのか。まだ32歳。5年ぶりの日本球界での復活劇は十分に期待が持てるだろう。