健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

仲良し老夫婦は幻想!?――歳をとると夫婦仲が悪くなる訳 

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聞き流す極意 

夫婦のどちらかの認知機能が低下してくるという状況は、決してめずらしいことではありません。そうなった場合、相手を否定するということが多々起きてきます。こうなってくるとますます夫婦間の会話は難しくなってきます。それは家族にとって大きな問題となります。

認知症の患者を抱えたとき、多くの家族は本人をなんとか説得して、理解させようとします。何度言っても間違えたりできなかったりすると、どうしても大声で怒ってしまうものです。
しかし、認知症の患者さんは、なぜそう言われるのか理解できません。ガスコンロに電動湯沸かし器のポットを直接置いてしまい火事になりかけた、というようなことが起きます。どうしてそんなことをしたのかと、家族は怒ってしまいますが、本人は家族を思って早くお湯を沸かしておこうと思ったかもしれません。電動湯沸かし器とやかんの区別がつかなくなっているので、自分が正しいことをしているのに怒られたと思い、患者さんはかえって混乱してしまうのです。

また何度同じことを言っても憶えていないことも、家族をいらつかせるものです。患者さんの不合理な行動や発言を「聞き流せるようになる」には、1年以上かかります。
ですが、家族が聞き流せる余裕を持てるようになると、不思議なことに、患者さんの認知症の症状も落ち着いてくるのです。いつも否定ばかりされていたのが怒られなくなったというのは、本人にとっては非常に快適な環境になったと思えるのでしょう。

普段も使える聞き流しの術

「聞き流しの極意」は、認知症の家族を抱えたケースにだけ使えるものではありません。たとえば、自分の意見を否定されたときにも応用できます。

相手のネガティブなパワーをさらりとかわすのです。「そうだね」「いいんじゃない」「そうそう」と同意することは、相手にとって非常にうれしいものです。
さらに「褒める」ことができれば、認知症の患者さんであろうと、家族であろうとすごくうれしいことであり、脳にとってもプラスに働きます。否定感などのネガティブな感情は脳にストレスをかけていくので、できるだけ避けるべきです。

聞き流しの極意にさらに相手を褒める力があれば、高齢になっても、たとえ相手が認知症になっても、平静でいられます。聞き流して、褒めるということまでできれば、自分の脳自体が活性化します。もちろん相手にもいい影響がでてきます。
否定してくる相手を「褒めて」「かわす」。これが、最上級者の会話術でもあります。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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