健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

もしかして大病?――「ふらつき」を感じたら何をすべきか

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ふらつきを起こす他の原因

耳が原因ではないふらつきにはどんなものがあるのでしょうか。
医学の教科書には、血圧が急に上がった場合にめまいが起こるとありますが、私の臨床経験ではそういった患者さんを診たことがありません。血圧が200近くてもむしろ無症状の人のほうが多いように思います。

ふらつきの原因として、脊髄の病気、パーキンソン病、重症筋無力症や多発性筋炎などが医学の教科書には書いてありますが、こういった病気の初発症状がふらつきということはまずないでしょう。他の症状が先に起こるので、結果的にはふらつきが出てはきますが、ふらつきを診て、小脳や耳以外の原因の場合は非常に少ないものです。

ネット情報でも医学の教科書でも、めまいやふらつきを起こすいろいろな病気が書かれています。それを読むと重篤な病気ではないかと悩んでしまうものです。それによって、以下のような症状が出てしまうことも少なくないようです。

・病気不安症(心気症)
ふらつきが続くと、自分は何かの病気にかかっていると心配し始めます。日常の生活が不安になったり、仕事がうまくいかなくなります。いろいろ検査を受けて、重篤な病気が否定されても、自分は何かの病気にかかっていると思ってしまいます。ふらつきやめまいを抱える患者さんには、こういった病気を持つ患者さんがいます。この場合に大切なことは、医師と信頼関係を築くことが重要になってきます。

では、ふらつきの原因としては、実際にはどういったものが多いのでしょうか。改めて箇条書きにします。

・加齢によって筋肉が減ってくると、足の筋力の低下が起きてきます。それが原因でのふらつきは多いものです。病気で長く寝ていても筋力の回復に時間がかかるので、ふらつきがでてきます。
・骨粗鬆症で脊椎の形がつぶれ、背中が曲がってくると、身体の重心がずれてくるので、ふらつきやすくなります。
・変形性股関節症や変形性膝関節症のために脚がまっすぐ伸びないと、これも重心が狂ってくるので、バランスが悪くなって、ふらついてきます。 

これらはいずれも年齢的な変化を原因にしたふらつきです。こういったふらつきは、完全に治療することは難しいものです。
筋力維持、それしか方法はありません。歩くだけでは筋力はつかないので、スクワットのような体重をかけた運動をしていくしかありません。治そうと考えるより、現状維持が重要なのです。

しびれの原因は

最後にしびれについてです。しびれもなかなか診断の難しい症状です。

糖尿病による神経のしびれは有名ですが、最近ではそれほど見なくなっています。早期の治療が進んでいるせいかもしれません。
ビタミン不足でもしびれは起きますが、現代のように普通にいろいろ食べられる生活ではまず、ビタミン不足は起きないものです。
頚椎症性脊髄症、腰部脊柱管狭窄症、腰椎変性すべり症、腰椎椎間板ヘルニアなど多くの脊椎疾患(整形外科の病気)でしびれが起きます。

手術で回復するケースもあるので、まずは整形外科を受診です。手足の神経の病気でもしびれが起きます。これらも手足の神経を専門に診ている整形外科や神経内科を受診すべきでしょう。

いろいろ検査をしても異常が見つからず、薬を飲んでも変化なければ――ふらつきやめまいが命に関わる病気の可能性は低いということです。 名医探しはやめて、人生の別な楽しみを探すほうがずっと症状は楽になります。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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