健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

長生きしたけりゃ激しい運動はするな?――医者が勧めるテキトーな運動法

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運動はいいことだけでない

続いて、運動に対する誤解に触れていきます。
まず一つ目、運動は痩せるという誤解です。ダイエットするために運動していますという人が多いです。しかし、実際にやってみてもなかなか体重は減りません。じつは体重を減らすために運動はほとんど役立たないのです。いくら運動量を増やしても1日の総消費カロリーはほとんど増えません。ダイエットするなら食事を減らすしかありません。

ついで二つ目は、時にはきつい負荷をかけたほうがいいという誤解です。
先ほども書きましたが、激しい運動は危険です。運動がからだにいいからと言って、短距離を何度も走ったり、毎日ランニングするのはかえってからだに悪いのです。有酸素運動を続けると過酸化物質ができて、からだにはマイナスになります。短距離競走のような無酸素運動でも、激しい運動を続けることは健康にはよくありません。
プロのスポーツ選手は、限界までからだを鍛え上げ、競技に人生のすべてを捧げています。あくまでもそれはゲームに勝つために行っているのです。健康のための運動という視点では、何もプロスポーツ選手を真似ることはありません。

適当にできる運動とは 

健康にいい運動というと、適度な有酸素運動がいいように書かれています。具体的には、早歩きでのウォーキング、ラジオ体操、ジョギング、自転車をこぐ、エアロビクス、水中ウォーキングやアクアビクス、水泳、テニスなどでしょう。どれも簡単なようでいて、なかなか敷居は高いのではないでしょうか。
また高齢になると筋肉が減ってくるので筋力トレーニングをやるべきだと言われていますが、これもかなり大変です。スクワットなら簡単にできるように思いますが、そんな簡単なことですら続けられないものです。
そもそも、リタイアして家にいることが多くなった人は、わざわざチームスポーツに参加する気にはなれません。昔から野球などやっている人ならいいでしょうが、いまさらそんなことは無理だと思うでしょう。

ちなみに、75歳以上の人が運動をすると、健康寿命が1~1.5年長くなるされています。
また別の研究によれば、運動をしない人に比べて、テニスをやリ続けている人は9.7年、バドミントンは6.2年、サッカーは4.7年、サイクリングは3.7年、スイミングは3.4年ジョギングは3.2年、寿命が延びるとされます。
しかし、そうしたスポーツを定期的にやれる環境にあるのは、ごく限られた余裕のある人とも言えそうです。そういった環境にあること自体が長生きにつながったということなのかもしれません。なお、長い時間を費やしても効果が最も小さかったのはスポーツジムでのエクササイズだとしています。

いずれにしても、一番大切なことは続けられる運動であることです。そう考えると、スポーツ器具やユニフォームなど必要のないこと、一人で気が向いたときにできること、お金のかからないこと、などが重要になってきます。
そうした点を考慮して、気軽にできる運動としては以下みたいな考えを持ってみるのはいかがでしょう。

① 散歩というと大げさなので、家の周りをウロウロしてみましょう。
② 登りはエレベーターやエスカレータで、下りは階段にすること。張りきって階段を上っていくと、かえって膝を痛めて危険です。
③ 自転車も電動自転車にすれば、多少遠くへ行く気が起きます(私の診療所に来ている90歳過ぎのおじいさんは、いまでも毎日、電動自転車でかなり遠くまで出かけます)。
④ 掃除や洗濯などの家事をすること。配偶者が亡くなって一人で暮らすときが必ずやってきます。そのためにも特に男性は家事をやるように努力すべきです。それだけでも十分運動になるのです。
⑤ 立って料理を作ること、立っている時間を増やすだけでもだいぶ違います。

運動と言っても、何も張りきってジョギングしなくてもいいですし、あまり付き合いのない人とわざわざテニスをしなくていいのです。とにかく立ち上がって家の中をうろうろする、それだけでも、何もしないでゴロゴロよりはいいのです。 

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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