「スワローズらしい良い文化を継承し、明るい素晴らしいチームを作っていかなくてはならない」――就任会見でそう語った、東京ヤクルトスワローズ高津臣吾1軍監督。昨季、2軍監督という立場からチームを支えてきた高津監督は、思わぬ事態に見舞われたこの2020シーズン、1軍監督としてどのようなビジョンでリーグ制覇を目指していくのか。本連載では、今年もインタビュアーに長谷川晶一氏を迎え、高津監督の野球論を余すところなくお届けしていく。
(インタビュアー:長谷川晶一)
――いろいろなことがあった激動の2020年シーズンが終わりました。現在の率直な感想をお聞かせください。
高津 一つ一つの出来事を思い出していくと、本当にいろいろなことがあったし、簡単ではなかった一年だったけど、12月になった今、改めて振り返ってみると一気に駆け抜けたような一年だった気もします。僕は元々ネガティブな性格なので、開幕前にはあまりいいイメージを持っていませんでした。そういう意味では、悪い意味でイメージ通りになってしまった気がします。改めて「ここが弱いな」「ここはこうしなければいけないな」というのが具体的に出てしまいました。
――開幕前の段階で抱いていた「ネガティブなイメージ」とは、具体的にはどんなことだったのでしょうか?
高津 これは去年からずっとそうでしたが、「まず第一に投手陣を整備しなければ」という思いは強く持っていました。つまり、「勝てる先発投手を増やすこと」「繋いで逃げ切れるリリーフ陣を作ること」を考えていました。小川(泰弘)が先発投手として10勝した、清水(昇)がセットアッパーとして最優秀中継ぎ賞のタイトルを獲得した、石山(泰稚)がシーズンを通じて頑張ってくれたなど、もちろんきちんと成果を出してくれたこともあったけど、シーズン成績やチーム防御率を見れば、「きちんと立て直すことはできた」とは言えない一年でした。
――神宮球場のような打者有利の狭い球場を本拠地としている東京ヤクルトスワローズの場合、打線の厚みを加えて「得点力アップを目指す」という考え方と、「投手を中心とした守備力を向上させて最少失点を目指す」という考え方の両輪があると思います。
高津 そうですね。ただ、今シーズンに関しては「バレンティンが抜けて得点力は下がるかもしれない」ということは事前から想定していました。その上で、「センターラインを固めて守備力を向上しよう」という考えで、ショートのエスコバーを獲得しました。でも、肝心の投手陣の整備が思うようにいかずに、結果を残すことができなかった。反省ばかりのシーズンだったと思います。でも、その中でも少しでも前進した部分もあった。結果が伴わなかったので、大きな声では言えないけれども、そんな思いもあります。
――今おっしゃった「前進した部分」とは、具体的にはどんなことでしょうか?
高津 勝利を目指して戦いつつも、多くの若い選手たちにさまざまな機会を与えられたことですね。特にピッチャーに関しては多くの選手を起用しましたし、彼らも「これが一軍のマウンドなのか」と感じることができたと思います。プロとしての1歩スタートを切らないと、2歩目は絶対にない。そういう意味では、こういうチーム状況だったからこそ、若手にチャンスを与えることができたし、確実に来年2歩目、3歩目を歩むためのスタートの年になったという気がします。マイナス面だけを見ずに、この点は必ず来年に向けていい方向に進んでいくと思っています。
――その象徴が今季最終戦となった11月10日、神宮球場で行われた対広島東洋カープ戦。期待のルーキー、奥川恭伸投手のプロ初登板初先発でした。このときは、どんな言葉で送り出したのですか?
高津 特に何も言っていないです。試合前に「緊張してるか?」と声をかけて、「一軍の雰囲気を勉強材料としてしっかり感じて、来年に生かせるように」と言ったぐらいかな? 結果的には本人も悔しかったと思うし、僕も「もう少しいいピッチングを見られたらいいな」と思っていたけど、「これは時間がかかるぞ」とか「来年もしんどいな」とはまったく思わなかった。繰り返しになるけど、2歩目を踏み出すための、いい1歩目になったんじゃないのかな?
――試合後のセレモニーでは監督あいさつの途中で、いきなり奥川投手を呼び寄せてあいさつを促しました。この狙いは?
高津 僕らもそうだったけど、ファンのみなさんにとっても、「みんなが待っていた奥川恭伸」だったからです。マウンド上でその姿を披露することができた。その上で、せっかくの機会だから自分の声でファンの人にメッセージを送ってほしい。ファンサービスの想いもありましたね。奥川自身は、突然の無茶ぶりに「何をしゃべればいいですか?」って慌てていたので、「自己紹介と、“頑張ります”と言えばいい」と伝えました(笑)。
――それでも、堂々とあいさつをしている姿は、さすがのゴールデンルーキーでした。
高津 ね、僕もそう感じました(笑)。突然の無茶ぶりだったのに、きちんと臆せずにあいさつをする姿を見て、「あぁ、さすがだな」と思いましたね。