「スワローズらしい良い文化を継承し、明るい素晴らしいチームを作っていかなくてはならない」――就任会見でそう語った、東京ヤクルトスワローズ高津臣吾1軍監督。昨季、2軍監督という立場からチームを支えてきた高津監督は、思わぬ事態に見舞われたこの2020シーズン、1軍監督としてどのようなビジョンでリーグ制覇を目指していくのか。本連載では、今年もインタビュアーに長谷川晶一氏を迎え、高津監督の野球論を余すところなくお届けしていく。
(インタビュアー:長谷川晶一)
――未曽有の事態に揺れに揺れた今シーズンの全日程が終了しました。今季の振り返りは改めて詳しく伺いますが、まずは今季の総括をお願いできますか?
高津 監督1年目であり、大変な事態の中で始まったペナントレースでした。昨年の結果を受けて、「去年と同じことをしても結果は出ない」という思いでキャンプから頑張ってきたけど、結果として、チームとして、個人として「まだまだ足りないもの」が見えてきた一年だったと思います。
――一年間の戦いを通じて、相手チームとの戦力差、実力差など、さまざまな課題が浮き彫りになったことと思います。
高津 チーム一丸となって戦っていかなければ結果は出ないけど、そこに小さなミスやほころびが生じてしまったら、それは大きな結果の差となってしまう。そんなことを痛感しました。こうしたミスは、我々首脳陣の考えや方針がきちんと徹底できていなかったためなのか、選手が中途半端な気持ちで試合に臨んでいたためなのか、シーズンが終わったばかりだけど、すぐにチーム全体で検証していかなければ、本当の「勝てるチーム」にはならないと思います。
――今季の反省や課題、今後の展望については、次回以降詳しく伺いたいと思いますが、ペナントレース終盤には若手選手の積極的な起用が目立ちました。当然、来季以降を見据えてのことだと思いますが、その意図を改めて教えていただけますか?
高津 若い選手にとって、「経験」というのは本当に貴重なものなんです。たとえ1打席でも、1イニングでも、一軍の試合で経験を積むことは、二軍で何試合に出場するよりもずっと大事なことだと、僕は考えています。村上(宗隆)がプロ2年目の昨年に、あれだけの活躍を見せたことは、その前年の1年目の終盤に一軍経験を積んだことが大きく影響していると思います。
――小川淳司前監督時代の2018年9月、当時ルーキーだった村上選手はプロ初打席で初ホームランを放ちました。この年のヒットはこの1本だけでしたが、それが翌19年の大ブレイクにつながったとお考えなんですね。
高津 そうです。もしも、18年終盤に一軍経験がなかったら、村上の昨年の活躍はなかったかもしれない。お客さんでいっぱいの一軍の球場、一軍投手のスピード、変化球のキレ、ベンチやロッカーの雰囲気、そういうものを経験しているかいないか、慣れているかどうかで、結果は大きく変わると思います。
――11月10日には、ゴールデンルーキー、奥川恭伸投手もプロ初登板を経験しました。これも、同様の考えからですね。
高津 そうです。今だから言いますけど、今年2月の沖縄キャンプでも、最終クールには奥川を二軍キャンプから呼び寄せるつもりだったんです。それは、たとえ最終クールだけでも経験させておいた方が、「来年の沖縄キャンプのためになるだろう」と考えたからです。来年のキャンプをゼロからスタートするよりも、たとえ「0.5」でも、「0.1」でも、一度経験しておけば「0」よりはずっと意味があると思ったからです。結果的に故障があったんで、見送りましたけど。
――そんな狙いも込めて、今季は若手の登用が目立ったんですね。
高津 高校卒業1年目、2年目の二十歳前後の若い選手に関しては、条件が整えば、できるだけ一軍の試合に出場させてあげたいという思いはずっとありました。まったく「0」で来季を迎えるよりも、今年中に1打席、1イニングを経験しておけば、それは来シーズンに大きな意味を持つことになる。そう考えています。
――改めて、「経験」の重要性、意味というものを教えてください。
高津 プロの世界というのは、二軍でたくさん練習をしても、一軍で結果が出なければどうしようもないんです。これは僕自身も経験がありますけど、いくらコーチが「ひじが下がっているぞ」とか「身体が開いているぞ」とアドバイスするよりも、ひょっとしたら、一軍で一本ヒットを打たれたり、失点したりした方が多くのことを学ぶかもしれない。それぐらい「経験」というのは大事なものだと思っています。