成績が振るわない、メンバーが互いに無関心でいっさい協力し合わない、仕事を作業と思っており楽しそうに働いていない、離職者が多く人の入れ替わりが激しい……。これらは日本の多くの職場で見られる光景です。こうした環境に疲弊し、働くことに希望を見出だせない人が増えています。
この絶望的な状況を変えられる唯一の方法が「チームづくり」です。チームづくりがうまくいけば、すべてが劇的に変わります。部下も会社もあなた自身もラクにする、チームづくりのノウハウを指南します。
この連載をまとめ、大幅に加筆・改稿した、ビジネス書『チームづくりの教科書』(高野俊一)が、アルファポリスより好評発売中です。
さて今回は、部下が勝手に育つ、次の3つの仕組みをご紹介したいと思います。
① スキル習熟度一覧
② ブラザー制度
③ テスト制度
はじめて部下を育成するとき、「うまく教えられるだろうか?」と自分の育成力が気になってしまいますが、でもじつは、リーダーの育成力よりも勝手に育つ仕組みのほうが、はるかに優れた部下を育ててくれるのです。
育成力に自信が持てないと悩む前に、最初からここで紹介する仕組みを導入してみてください。
部下が勝手に育つ仕組みのうちもっとも重要なのが、スキル習熟度一覧です。
スキル習熟度一覧とは、「部下が覚えるべきスキル」を一覧にして、「どの程度習熟しているのか」を見える化するシートです。
チームによって、部下に覚えてほしい仕事があるはずです。それを1つずつ書き出していきます。
まず縦軸に、「覚えてほしい仕事」のリストをならべます。そして横軸に自分を含めたメンバー全員の名前を書きます。これで、仕事のリスト×メンバー名の表ができあがります。
そのうえで、その仕事の「習熟度」を4段階で評価していきます。
◎ … 人に教えられる
○ … 1人でひととおりできる
△ … 教わったが自信がない
× … まだ教わっていない
このくらいの、ざっくりした評価で問題ありません。
当然あなた自身のスキル評価は◎が多くなるでしょうし、部下たちは×が多くなると思います。これで人によって、どの仕事を習熟していて、どの仕事ができないかが一目瞭然になります。
このスキル習熟度一覧を作って貼りだすと、面白い効果があります。
人は×を△に、△を○に、○を◎にしたがるものです。自分の部署全員のスキル習熟度が見える化するので、この一覧を貼りだすだけで、部下たちは×をなくすために自ら仕事を覚えようとするのです。
また、部下は自分の覚えるべき仕事を一覧で把握するので、自分自身の成長の見通しを持つことができます。
さらに、◎は「人に教えられる」レベルですので、×と◎の人を一緒に組ませて仕事をさせれば、部下同士で教え合う体制もつくることができます。
あなたの部署には、このスキル習熟度一覧がありますか? ないとしたら、今すぐつくることをおすすめします。
また、このとき「スキル評価」の手順にコツがあります。
❶ 部下本人に「自己評価」をさせる
❷ 部下との1on1面談で、「自己評価」と「上司評価」をすり合わせる
❸ スキル項目のうち、何を身につけるかの「目標」を決める
❹ 全員の部下とすり合わせたら、一覧を「貼りだす」
❺ ◎と×・△を一緒に組ませて、仕事をしながら「教え合う環境」をつくる
この順番が大事です。
やってしまいがちな失敗が、部下に自己評価させず、上司がいきなり全スタッフの評価をすることです。
これでは意味がなくなってしまいます。
部下自身が自分をどう分析しているかが大事なことで、その自己分析の癖をつけてもらうことも、部下の成長にとっては欠かせないプロセスなのです。
部下がスキルの内容をよく理解しないまま、突然一覧を見せられ、自分の評価を勝手にされているとなると、何が起こると思いますか?
「私のこと、こんなにできないと思っていたんだ」とか、「私はできると思っているのに全然評価してくれない」と誤解が生まれ、上司と部下の信頼関係が壊れてしまいかねません。
最初に自己評価をさせることで、部下自身もスキル習熟度一覧に書かれているスキル内容を理解することができますし、自己評価をしたあと、その評価でいいのかどうかを1on1面談ですり合わせることで、さらに理解が進みます。
上司と部下の評価が一致したら、それを「目標」に変えましょう。
次はどの仕事を覚えたいか、いつまでにどのスキルを覚えるかなど部下自身の目標に変えることが重要です。