あるとき、たまたま東大に合格した学生にインタビューをする番組を見たのですが、東大生の親は「勉強しろ」と言わないそうです。
東大は日本有数の難関校ですから、大変な量の勉強をしているのは間違いありません。親が「勉強しろ」と言わないのに、勝手に勉強するようになり、東大に合格するほどの学力を身につけさせられたのは、どんなからくりなのでしょうか。これは偶発的に「親が何もしないで育った話」なのでしょうか。親にとってみれば、たまたまそういう子どもになってくれてラッキーということなのでしょうか。
そんなはずはありません。必ず、何か仕掛けがあるのです。
注意深く見てみると、子どもが「勉強しろ」と言わなくても「勉強したくなる」ようになる仕掛けがあるようでした。たとえば、
・本棚に興味を持つような本を入れておく
・机の上に遊びの延長で学びになるおもちゃを置く
・興味がある分野があったらその体験ができる施設に遊びに行く
そうやって親が用意した仕掛けに引っかかったら、すかさず褒めてあげると、子どもは勉強が好きになる。毎日本を読むようになったり、英単語を覚えるようになったり、自分で調べて考えるようなルーティンが生まれ、どんどん勉強ができるようになる、とのことでした。
非常に単純ですが、巧妙な仕掛けです。これが、「勉強しろ」と言わずに勉強が好きになるメカニズムです。
そしてこれは、先に述べた表現で言えば、CANが増えたらWANTが増えるのと原理としては同じなのです。
さらに面白いのが、東大に合格した家庭の親は、MUSTの教育がしっかりしていたというのです。
たとえばレストランに行ったら、子どもはどうするべきなのでしょうか? もしもWANTを聞いたら、「騒ぎたい」「走り回りたい」となってしまうはずです。
そこで親は、MUSTを教えます。レストランはごはんと会話を楽しむ場所だから、騒いだり、走り回ったりしてはいけないんだ、というMUSTを教えるのです。
このように、子どもの教育は、MUSTの教育が非常に重要だと言います。これには、深くうなずいてしまいました。
私もこの20年、様々な組織を見てきましたが、強いチームはMUST基準が高いのです。
たとえば、飲食店の素晴らしいチームは、挨拶の基準がとても高いです。
お客様の入店時の「いらっしゃいませ」という挨拶、この挨拶の基準がどのレベルにあるのかは、飲食店の経営においてきわめて重要なことです。
皆さんも、飲食店に食事に行き、ものすごく感じがよく居心地のよいサービスを受けた経験があると思います。そのときのことを思い出してください。どんな挨拶でしたか?
挨拶の基準の高いお店は、その表情、声色、しぐさに至るまで、全身から「歓迎感」が伝わります。きっとそういう素晴らしい挨拶だったはずです。
MUST基準の高いお店というのは、お店全員でこの挨拶のレベルを徹底します。
これは、やりたい(WANT)とかやりたくないの話ではありません。MUSTなのです。
新人に「こんな挨拶したいですか?」と質問してみても、中には「別に、したくないです」と塩対応で返されるようなことは、よくあることだと思います。そのときに、WANTを聞くからいけないのです。
子どもがレストランに入ったときに、WANTを聞かずにMUSTを教えるように、新人にはWANTを聞いてやる気がないなら諦めるのではなく、MUSTを教えてそれを守らせる。そうやって高いMUST基準の挨拶ができる(CAN)ようになれば、その素晴らしい挨拶を受けたお客様が感動してくれます。
お客様が感動するのを目の当たりにして、こういうサービスをもっとやりたいとWANTが湧いてくるわけです。
部下を仕事好きにさせるのがうまい人は、「もっと仕事しろ」「もっとお客様のことを考えろ」「納期や時間を守れ」なんてことは言いません。
言われなくても部下は、勝手に仕事をするし、お客様のことを考えるし、納期も時間も守ります。
これは、偶然そうなっているわけではないのです。
そもそものMUST基準が高いのです。自分たちが高めるべきMUST基準が何か、ぜひ部下と話し合ってみてください。
どんなルールやルーティンを守るべきか、そこが言語化できると、チームはさらに強固なものになるはずです。