MSUT、CAN、WANTの順番で考えさせ、欲求を引き出して目標を描けるように導くわけですが、CANの強化はとても重要な要素です。できることが増えれば、やりたいことが増えるので、CANをいかに増やせるかが部下の意欲に大きく影響するわけです。
部下にやる気がなかったなら、CANを増やすことに専念すべきです。
では、このCANはどうすれば増やすことができるのでしょうか。
単に「仕事を覚える」というようなCANではなく、部下のコアとなる「強み」をつくる。そのためには戦略的にデザインすることが有効です。就職活動で「あなたの強みはなんですか?」などと聞かれると、どう答えてよいか困るものですが、あの質問がなぜ答えにくいかというと、CANが少ないからです。
藤原和博さんの掲げている「3つのキャリアの大三角形」という考え方が、強みを見つけるのに役に立ちます。藤原和博さんはリクルート出身で、ビジネスの世界で経験を積んだ後、中学校や高校の校長をされ、学校改革に大きく貢献した方です。
キャリアを考える際、100万人に1人の人材になろうと、藤原さんは呼びかけます。100万人に1人というのは、スポーツで言えば、オリンピックに出るような人になるということです。そうだとすると、しり込みしてしまうかもしれません。ですが、藤原さんは、100人に1人の強みを3つかけ合わせれば、誰でも100万人に1人になれると語っています。
100人に1人になるのは、決して不可能ではありません。たとえばパソコンに詳しいとか、絵を描くのがうまいとか、走るのが速いとか、1つのスキルを習熟し、ランダムに100人を選んだときに1位か2位くらいには入れればいいのです。これは、努力すれば身につけられると言われています。
スキルの習熟については、ある程度データがそろっていて、だいたい1万時間費やすと達成できると言われます。1万時間というのは、平日8時間、休祝日を除く245日にそれに費やすとすれば、約5年で達成することができます。
つまり、平日毎日おこなう仕事に関係することであれば、100人に1人になれるのです。
藤原さんは、キャリアの最初をリクルートで過ごしました。営業でみっちり8年間働き、そのスキルを習熟します。その後、部下を持ってマネジメントを7年ほど経験し、マネジメントも習熟しました。では、3つめのキャリアをどうするか。
藤原さんは次のように言います。
1つめの100人に1人のスキルは、最初についた仕事を一生懸命やれば身につく。
2つめのキャリアは、1つめのキャリアに近い分野で磨かれることが多い。
3つめのキャリアは、1つめと2つめから距離が遠いものを選ぶほうが、希少価値が高まる。
そして、この3つのキャリアの面積が大事だと言うのです。3つめのキャリアが遠ければ遠いほど、世の中には存在しない希少な価値を生むというわけです。藤原さんの場合は、それが学校の校長というキャリアでした。営業ができて、マネジメントができて、学校の経営ができる。そういうキャリアの大三角形ができあがったわけです。
最初に身につけるCANは最初の職場から生まれるというのは、まさしくMUSTに向き合うことと同義です。MUSTに向き合い、1つめのCANを身につけたら、2つめのCANを1つめのCANから近いところから磨きあげる。そうして最後の3つめは、なるべく遠いところで三角形の面積を大きくするのです。