部下に期待するのは良いことだ、と思っていませんか?
実は期待していいのは、部下の「未来」に対してだけです。
部下を辞めさせない上司は、自分の中で部下に対する期待値のコントロールをしています。そもそも、部下の「現在」に対してほとんど期待をしていません。期待値をぐっと下げれば、必ず褒めるポイントが見つかります。
例えば3歳の子どもが元気な声で「おはようございます!」と挨拶をしていると、「(こんなに小さいのに)立派な挨拶ができたね」と褒めることは誰でもできます。
これが23歳の青年だとどうでしょうか。大人になって挨拶くらいできて当たり前ですから、そもそも気にも留めないでしょう。
しかし、期待値コントロールが上手い人は「元気に挨拶をしてくれてありがとう!」と褒めたり、感謝を述べたりすることができます。
同じように、部下の仕事に対する期待値を下げることで「納期を守れた」「事前に相談できた」「読みやすいように文字を工夫した」など、当たり前と思えるようなところにも、部下の良い点を見出すことが必ずできます。
完璧な人なんていませんから、そもそもできないのが普通です。そのスタンスでいるだけで、改善点をネチネチと指摘する必要がなくなり、次により良くするための穏やかな指導ができるようになります。
私はこれまで、様々な組織のリーダーを見てきましたが、部下に対する期待値が異様に高く、それを越えられない部下の姿を見て「こいつはだめだ」とその未来に対して失望している上司は珍しくありません。
でも本当は、部下の現在に対しては期待せず、未来に対しては大いに期待するのが上司のあるべき姿です。
「あなたには期待しているよ」という言葉は、部下の未来に対してかける言葉なのです。
ここまでの話で、褒めるポイントの見つけ方は分かっていただけたと思いますが、ただ褒めて終わっていれば、部下との関係は改善しても、ただの仲良しチームになってしまう可能性があります。
ビジネスを行う組織として成立させていくためには、部下との人間関係と、部下個人の成長やチームの目標達成を両立して考えていかなくてはいけません。
そこで、部下育成が上手い上司は、期待値コントロールで褒めて、ストレッチゴールを与える、というアプローチを行います。
ストレッチゴールとは、現在のスキルや能力だけでは達成が難しく、最大限の努力が必要な目標のことです。
なんとか達成しようと創意工夫をするプロセスを繰り返すことで、部下個人の能力が引き上げられると同時に、チームの成果にも直結します。また、ストレッチゴールを達成した経験は、より難しい目標へ向かうモチベーションにもつながり、飛躍的な成長を可能にします。
ここで積極的に活用してほしいのが1on1面談です。
褒めるにしても、ストレッチゴールを設定するにしても、そもそも部下と適切なコミュニケーションが取れていないとできないことです。また、1on1を定期的に行うことで、部下の変化に敏感になり、離職のサインにも気づきやすくなるというメリットもあります。
月に一度1on1面談では、部下が感じている「良かったこと」や「もやもやしていること」を引き出し、まずは一緒に現状を俯瞰しましょう。良い点を褒め、改善点を共有し、全体を見た上で部下の今に合った目標を示します。
このときも「〇〇しなさい」という指示ではなく、「こうしたら良いと思うんだけど、どう思う?」と提案し、部下の主体性を尊重するアプローチをとります。
部下とのコミュニケーションにおいては、自分の勝手な基準を押し付けない意識を持つことがとても重要です。
あえて期待値を下げ部下の良い所を見つけ、1on1面談で部下に寄り添い、お互いに納得の上でストレッチゴールを設定することで、また部下が迷わずに仕事に没頭できるようになります。
今回の方法は、自分自身の当たり前の基準が高く、問題解決力の高いタイプの人にこそおススメです。
自分自身の基準が高い人は、周囲の人にもそれを求める傾向が強く、さらに理詰めで部下の欠点を指摘してしまい、無意識のうちに部下を追い詰めていることが少なくありません。
もし今あなたが部下に対して、不満やイライラを感じているのであれば、それは部下が悪いのではなく、あなたが一方的に自分基準を押し付けているだけかもしれません。「この人はなんでこんなに仕事ができないんだろう」と思っていた部下も、見方を変えれば良いところがたくさん見つかります。
当たり前の基準が高いことは、決して悪いことではありません。
但し、部下に対して今すぐ自分と同じレベルを求めるのではなく、褒める+ストレッチゴールを繰り返しながら少しずつ引き上げていきましょう。