「もう辞めたいんです」
部下から差し出された退職願を見て、ショックで一瞬頭が真っ白に……。上司という立場に立つと、こうしたことも少なからず経験するようになります。
終身雇用制度がほぼ機能していない昨今、人が会社を辞めるのは珍しいことではありません。厚生労働省のデータでは、新卒3年以内の離職率は大卒でも30%以上となっています(平成29年3月卒業者)。
ある程度人が辞めていくのは仕方がないとはいえ、中には「この人の下につくと、社員がすぐに辞めてしまう」という不名誉なレッテルを貼られてしまう上司がいます。
部下を休職や退職に追い込み、潰してしまうという意味で「クラッシャー上司」と表現されることもあるようです。
会社としても、そうした人には部下を預けることができず、評価が下がってしまったり降格になったりする場合もあるでしょう。
「そもそもやる気なんて、本人の心の持ちようだ」と思う人もいるかもしれませんが、部下の仕事に対するモチベーションと上司の働きかけは密接に関係しています。
あなたは、部下のやる気を引き上げることができていますか? それとも逆に、部下のやる気を削いでしまってはいませんか?
部下をどんどん成長させることができる上司もいれば、部下のやる気を削ぎ、すぐに部下が辞めていってしまうような上司もいます。その違いはどこにあるのでしょうか?
「もうこの人の下では働けない」と思われてしまう上司の特徴を押さえ、そうならないための対策と、部下への適切な働きかけをご紹介します。
人が仕事を辞める理由は、給料や福利厚生などの条件、対人関係を含めた職場環境、仕事の内容と自分の能力のミスマッチなど様々ありますが、大きく次の3つに分けられます。
・仕事がつまらない
・未来に希望が持てない
・上司に対する嫌悪
とくに上司に対する嫌悪は、離職理由ランキングなどでもトップに入ってくる項目です。
上司ガチャといった言葉も話題になりましたが、部下は上司を選ぶことができません。それでいて仕事をしていくうえで多分に影響を受ける存在ですので、上司との折り合いが悪いということは、部下にとって大きなストレスになってしまいます。
ところが、当の上司本人が「自分のせいで部下が辞めていること」に気づいているかと言えば、そうではないかもしれません。
多くの場合、人は辞めるときに「もっと条件の良い仕事が見つかったから」「家庭の都合で」などもっともらしい理由をつけます。退職願を提出する上司自身に面と向かって「あなたが嫌だから辞めます」と言える人は稀でしょう。
そのため、部下を辞めさせている上司自身は、自分の行動を振り返り反省する機会を得ないまま、ときには「今時の若者は根性がない」などと、部下のやる気のなさを取り立ててしまうことさえあるのです。
そしてその態度がまた、次の離職予備軍を作っているかもしれません。
ところで、あなたの部下の働きぶりはどうですか?
いつもあなたの期待を上回ってきますか? それとも、下回ってきますか?
ここで、下回っている、と答えた人は要注意です。実は、部下を追い込んでいるのは、上司の「高すぎる期待値」です。
求める基準が高く、「これくらいできるでしょ」と部下に期待しているからこそ、いつもその基準を下回ってくる部下の仕事に対して腹が立ってきます。なんでこんなこともできないのだろうと呆れ、ひどいときには関わるのをやめてしまいます。
部下からすれば一生懸命頑張ったのに、褒めてもらえないどころかガッカリされ、何をやってもダメ出ししかされない状況は、全く面白くありません。そうすると、仕事に意義を見出せず手を抜き、上司はさらに失望するといった悪循環が発生します。
こうした状況を作り出してしまう上司には、実は仕事ができる人が多いのも特徴です。自分自身の当たり前の基準が高いからこそ、部下にもそれと同じものを求めようとする傾向があります。
「なんでこんなこともできないの?」
「どうして分からないの?」
「前にも言ったよね……」
こうした言葉は、上司にとっては期待の裏返しであると同時に、部下の心をえぐる言葉でもあります。
もし今あなたが部下に期待しているのであれば、直ちにやめる必要があるのです。