最近では、「相手がバカだから話が通じない」とか「バカに足を引っ張られる」とか「バカ」の周りにいる弊害を嘆く声が結構あります。
こちらのプレゼンを聞いて、そのテーマについて何も知らないくせに全否定をしてくる「バカ」、こちらが筋道立てて話をしているのに、「そもそもさあ」などと言いながら何の関係もない話を持ち出してくる「バカ」、一言では説明できないことについて「一言で言えよ」とバカの一つ覚えのように言ってくる「バカ」、などなど。
例を挙げれば限りがありませんが、ともかく話の通じない「バカ」と言われる人は、確かにいます。
今の風潮として、「そういう人は相手にしないに限る」と言われがちですが、実際問題そうもいかないものです。そうした人たちとも付き合い、話し合い、動かしていかなければいけないのが我々の現実でしょう。
では、いわゆるバカと言われる人たちをどのように説得し動かすべきなのか?
今回はギリシャ・ローマ式弁論術を、ヒントにそうした「バカ」の動かし方を見ていこうと思います。
「弁論術」という技術はそもそも、ある意味ではバカと言われる人たちを相手にすることを前提としたものです。その証拠に、アリストテレスも、
「弁論術の仕事は、……長大な議論を見通したり迂遠(うえん)な推論を辿ったりする能力を具(そな)えていない、そのような聴衆のもとでなされる」(『弁論術』第一巻第二章・堀尾耕一訳)
とハッキリ書いています。
つまり、相手の知識や能力に期待ができないところでも、なおかつ説得できてこそ弁論術なのです。その意味では「バカ」を説得できてこそ一人前と言えます。
まず、具体化させておかなければいけないのが、この場合の「バカ」とはどういう人間を指すのかということです。今、話題になっている「バカ」。それは、次のように定義されるでしょう。
そのテーマについて何も知らず、判断力もないくせに、的外れな意見を言いたがる人
もちろん、これとは別に単に感情的なだけの激情型の「バカ」もいますが、それについては前々回扱ったので今回は触れないことにします。
それはともかく、この定義でもとくに重要なのが「意見を言いたがる」という部分です。
彼らが何かを言いたがるのは、プライドの表れ。彼らは「賢いと思われたい」「かっこよく思われたい」「重要な人物だと思われたい」から何かを言いたがるのです。
ならば、彼らと会って実際に話をする時には、そのプライドを決して傷つけてはいけません。
そこを傷つけると、相手は「バカ」だけにそれを取り戻そうとムキになって、さらに的外れな意見や批判をぶつけてくるからです。要はさらにこじれるのです。
したがって、この
「相手のプライドを傷つけない」
というのは、「バカ」を相手にする時の基本方針になります。逆に言えば、プライドのケアさえできれば、意外に彼らは物分かりよくこちらの話に頷いてくれるものなのです。
では、具体的にはどのように話をすすめればいいのか? そこで大切になってくるのが、次の三つのポイントです。
1、相手が理解できる限りの難しい言葉を使う
2、話は「正しさ」よりも「最短距離」を選ぶ
3、相手の言い分を引用する
この三つを守って、説得を試みれば相手のプライドを傷つけることなく、説得が可能です。一つ一つ見ていきましょう。