巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……
爆破火具とは、16世紀末にフランスで発明された兵器のことである。植木鉢のような金属の容器に火薬を詰めたもので、底からは導火線が伸びている。そして、上面には木の板で蓋がしてある。このなんとも珍妙な兵器は、城や要塞の扉を吹っ飛ばすのに利用された。爆破火具の上面を扉に向かって固定し、導火線に点火すれば丈夫な金属製容器によって爆発に指向性が生まれる。扉のかんぬきや錠を吹っ飛ばすなどわけのない破壊力だ。しかしこの破壊力の恩恵を受けるためには、爆破火具を持って敵の城門に近づき、城門に鉤(かぎ)をしっかりとねじ込んで爆破火具に固定するという、命知らずのチャレンジャーが必要だった。彼こそが、『爆破火具師助手』その人であった。
そもそも、爆破火具を製作しているのは爆破火具師という職人である。だが、製作には熟練した技術を要するため、おいそれと爆破火具師に危険なことをさせるわけにはいかない。そこで、助手を起用する必要が出てくるわけである。もちろん彼らとて、危険は重々承知であった。ゆえに、強い酒をおもむろに1杯あおって、爆破火具を小脇に抱え死地に赴いた。ほとんど特攻隊員の心境である。
また、彼らの装備には選択肢があった。動きは鈍るが重装備の鎧を着てじっくり設置するか、防御力は劣るが軽装で速攻をかけるかの2択である。あたかもテレビゲームのような選択肢だが、どちらを選んでもゲームオーバーになりかねないから不条理である。そして、運よく設置できたとしてもまっすぐに逃げてはいけない。爆発の反作用で、金属の容器がこちらに飛んでくるからだ。つくづくネタ要素の多い兵器だが、付き合わされるほうは笑い話では済まなかっただろう。
(illustration:斉藤剛史)