巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……
反吐(へど)とは吐瀉物(としゃぶつ)、つまりゲロのことである。ローマ帝国華やかりし時代、美食は貴族たちの大いなる楽しみであった。そんなことは昔に限ったことではない、とツッコミが入りそうなものだが、どっこいローマ貴族の美食っぷりは我々の想像のナナメ上を行く。満腹になるまで食べたらすべて吐き、胃がスッキリしたところでまた食べていたのだ。『美味しんぼ』の海原雄山も卒倒モノ&美食倶楽部の敷居を二度とまたげないことは必定であろう。
貴族の皆さんは専用のボウルや床に直接ゲロったりしていたわけだが、さすがにそのままでは悪臭が漂って興が削がれること甚だしい。なんせ、トイレに行くでもなく食卓のある部屋で吐いていたのだから。そこで登場するのが『反吐収集人』である。彼らの仕事は床の吐瀉物や食べ残しをすばやく片付けることだ。食卓の傍らに控えて奉仕する、という意味ではホールスタッフと言えなくもないが、とても現代におけるそれと同列に扱っていいレベルではないだろう。なにも好きこのんでこんな仕事に……と思ってしまうが、あてがわれていたのは奴隷階級の人々。そこらへんは時代との折り合いがついていたのである。
豪華さだけでなく、かくも特殊なローマ帝国の食生活。題材として取り上げれば、あらかたネタの出尽くしたグルメマンガに新風が吹き込むこと請け合いであろう。「それでは至高側の料理に移る前に……」とか言ってビタビタ吐くのである。斬新だ。もしくは、反吐収集人にテーマを絞って、みんなの3倍速く集める業界のエースにライバル心を燃やす新入りの少年(声:「アムロ・レイ」役の古谷徹)なんて構図でアニメ化したり……しませんか。そうですか。
(illustration:斉藤剛史)