巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……
海軍でまだ帆船が使われていた時代、『檣楼員(しょうろういん)』はイングランドの軍艦乗りの花形だった。マストの上部で敵を監視したり、風を感じて帆の調節を指示するのが主な任務だ。よく、映画なんかで「島が見えましたぜ船長!」とか言っているアレである。高所から船員たちに指示を出す姿は、さながら船上の指揮者といったところだろう。
と、まずはいいことばかり挙げたが、高所での作業は数々の危険も孕んでいた。海面から数十メートルの棒の上にいるわけであるから、シケの時は大いに揺れる。帆船のマストは重要な攻撃目標でもあるから、自分に向かって大量の砲弾が飛んでくることになる。直撃したら死ぬし、マストが折れてもたぶん落ちて死ぬ。そんな職場である。
だが、福利厚生は充実していた。食事には、日持ちがするよう堅く焼いたパンに塩漬けの肉、水で戻した乾燥豆が供された。このメニューが毎食エンドレスループすることを除けば、充分と言えよう。その他4.5リットルのビールと、水割り用のラム酒が約300ミリリットル毎日支給された。戦争に勝つ気があるのか、ちょっとだけ疑わしくなる。
さて、ここらで“性のクルージング”についても述べておこう。海の男たちは、閉鎖された環境と女っ気の少なさゆえ、ついついくんずほぐれつのプレイにハッテンしてしまうことがあった。しかし、1749年制定の海軍条例では男性クルー同士の本番行為を堅く禁じている。もし発覚した場合は罰金100万円、どころではなく軍法会議のうえ死刑となった。それだけ海軍にGメンがいたことの証左と言えよう。花形であるところの檣楼員は、ひょっとしたら敵味方の両方から狙われる立場だったのかも知れない。
(illustration:斉藤剛史)