こんな仕事絶対イヤだ!

穴の開いた紙まで再利用――古骨買い

2018.01.07 公式 こんな仕事絶対イヤだ! 第91回

巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……

傘を捨てるなんてもったいない!

江戸の人々は使えるものは積極的に再利用したが、古傘はその代表例と言うことができよう。現在ではコンビニでビニール傘が手に入り、ほとんど使い捨て感覚で利用されているが、江戸時代では一番つくりの安い傘でも二百~三百文(約4000~6000円)くらいはしたから、多少穴が開いたり骨が折れたりしたからといっておいそれと捨てたりはしなかった。こうした中古の傘は『古骨買い』が買い集め、再生工程に乗せていたのだ。

街頭の「古骨はござい~」というかけ声が、彼らがやって来たことを示す合図だった。江戸では中古傘の程度によって四文、八文、十二文と3段階の買値がつき、いっぽう大阪では人形、土瓶、鍋、うちわなどと物々交換した。傘の状態があまりに悪いと、逆に売り手がお金を足して交換することもあったという。なんだか本末転倒な気もする。買い取られた傘は古くなった紙をはがし取るのだが、この紙は油紙で撥水(はっすい)性が残っているので肉や味噌、漬物を包むのに利用された。とにかく、使えるのならばなんでも使ったのである。骨の部分は削りなおして綺麗に整え、ふたたび紙を張りなおせば完成である。

これほど大事に使っているものなればこそ、それを失ってしまった時の衝撃も大きい。ビニール傘ならば強風で裏返しになってしまっても、周囲の視線に頬を染める程度で済むが、同様のことが和傘にあれば大ダメージ必至である。お店で傘パクされた時の怒りも現代の比ではあるまい。そもそも傘パクとか笛なめとかブルマドロとか、そういう慣習が江戸期にあったのかは不明だが。

(illustration:斉藤剛史)


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プロフィール

清水謙太郎
清水謙太郎

1981年3月、東京都生まれ。成蹊大学卒業後にパソコン雑誌の編集を手がける。また、フリーライターとして文房具、自転車などの書籍のライティングや秋葉原のショップ取材等もこなし、多岐に渡る分野でマルチな才能を発揮している。

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金持ちの道楽として庭で飼われた「隠遁者」、貴族の吐いたゲロを素早く回収する...
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