巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……
ヨーロッパのほぼ全域で存在した仕事なのに、就業人口はかなり少ない。それが、『森番(もりばん)』である。彼らの仕事は、天然資源の宝庫である森を管理することにあった。森の動物は毛皮や肉として、樹木は家の建材や薪のみならず、自然災害や外敵から身を守る防護壁の役割まで果たした。森は近隣に住まう人々を豊かにしてくれるものであり、誰かしらが森と人間との調整役をする必要性があったのだ。
また、森は自然信仰の対象でもあった。童話などで“帰らずの森”とか“禁じられた森”などという言葉があるように、死者の霊や神々が安らぐ場所と考えられていた。何人(なんぴと)も不必要に立ち入ってよいものではなかったのだ。とはいえ、アホな子供がついつい迷い込んでしまうことは得てして起こってしまうもの。そんな場合は、森番があえてさらに迷わせたりして、お灸を据えてやるのだ。かくして、不見識だった子供は座りションベン垂らしながら、森を畏怖(いふ)する心を植えつけられるのである。
森番は、自然に対する知識に加え、体力も要求された。密猟者と対峙せねばならないからだ。きっちりと管理された森ほど密猟者にとっては魅力的なわけで、いざという時に荒事をこなせない者は、残念ながら森番としては失格なのである。心技体の充実を要求されながらも、近隣の村人からは一線を引かれる存在。誰もが務められる仕事ではなかったということだ。さて、ここまで紹介したところで脳内イメージキャラは室伏広治(むろふしこうじ)に落ち着いたんですが、いかがなもんでしょう。
(illustration:斉藤剛史)