こんな仕事絶対イヤだ!

年の瀬に気分を一新――へっつい直し

2017.12.03 公式 こんな仕事絶対イヤだ! 第81回

巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……

ご家庭の壊れた竈をクイック補修

へっついとは、竈(かまど)のことである。古来より日本の台所ではへっついで煮炊きが行なわれてきたわけだが、使っているうちにひび割れたり欠けたりすることがあった。石でできているものならばそうそう壊れたりはしないだろうが、土製のへっついは比較的劣化しやすかった。これを修理する専門の職人が『へっつい直し』であった。

彼らの最大の稼ぎ時は、年末だった。江戸時代では年を越す前にへっついを修理する風習があったためである。べつに近所の左官屋に頼んでも問題はなかったのだが、年末となるとなかなかスケジュールが取れなくなる。だからこそ、流れのへっつい直しに声が掛かったというわけだ。彼らは鏝や補修用粘土など道具一式を常に持ち歩いていたので、仕事とあらば即座に対応することができた。新年を迎えるにあたって竈までもきれいに整えるという考え方は、非常に江戸時代的な発想と言える。年末だからといって調子の悪いガスコンロを修理する人はあまりいないだろう。

しかし、飛び込み営業的な性格がある職業のため、依頼者との間でトラブルが起こることもあった。多少の出来の良し悪しは仕方ないが、法外な高値を吹っかける者がいたのだ。きっぱりと断りたいところではあるが、鏝(こて)を持ったおじさん×1がすでに土間まで入り込んでいるわけである。日中でご主人が不在の場合などは、恐くて断りきれなかっただろう。事前に価格の確認を怠った依頼者にも落ち度はあるが、やはり褒められたものではない。

(illustration:斉藤剛史)


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プロフィール

清水謙太郎
清水謙太郎

1981年3月、東京都生まれ。成蹊大学卒業後にパソコン雑誌の編集を手がける。また、フリーライターとして文房具、自転車などの書籍のライティングや秋葉原のショップ取材等もこなし、多岐に渡る分野でマルチな才能を発揮している。

著書

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金持ちの道楽として庭で飼われた「隠遁者」、貴族の吐いたゲロを素早く回収する...
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