巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……
武家御用達のリサイクルショップのこと。なのだが、扱っている商品はちょっと特殊だった。のし鮑(あわび)に干魚、からすみ、なまこの干物など、高給な乾物ばかりなのだ。これには理由があった。江戸の街には、将軍を頂点として様々な階級の武士が住んでおり、こうした贈答品が贈り贈られすることは頻繁にあった。加えて、参勤交代があると遠隔地の大名などから日持ちの良い食材が献上される機会はさらに増えた。だが、貰う側も乾物ばかりそうそう必要なものでもない。そこで、献残屋(けんざんや)に売って少しでも現金化しようと目論んだわけだ。昨今のデパートでも、お中元やお歳暮の売れ残りが格安でバラ売りされることがままあるが、やはりこの手の品はどうしても余ってしまう宿命のようだ。献残屋に売られた贈答品は、単に食べたい人が買ったり、再び贈答品として悠久の旅に出ていった。こうした“贈答品ループ現象”が現代においてなお散見されるのは、興味深いことである。こと贈り物に関しては、昔も今も日本人の気質はあまり変わっていないのかも知れない。
そして、献残屋でしか処分できない江戸時代のキング・オブ・贈答品と言える品がある。“上がり太刀”と呼ばれる木刀がそれだ。正月に全国の大名が将軍に献上するもので、黒漆を塗って真鍮の飾りが施されている。全国におよそ270もの藩があるわけだから、単純に考えればそれだけの上り太刀が献上されることになる。現代人から見れば超がつくほどいらない&どうでもいいブツであるが、江戸時代ではこの豪華な木の棒のやり取りが毎年延々と続いていたのである。献残屋の存在は、一般の町人のみならず、武士にもリサイクル精神が根づいていたことの証明と言えよう。
(illustration:斉藤剛史)