巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……
18世紀後半のフランスでは、髪結い見習いのことを『メルラン』と呼んだ。女性はもちろん、男性も髪を三つ編みにしたり、何重にもカールさせたり、ポニーテールにしたりと様々なヘアースタイルを楽しんでいた。だからこそ、メルランにとって仕事の機会はそこかしこに転がっていたと言える。召使や見習いコックなど身分の低い者は、お手頃価格で髪をセットしてくれるメルランをこぞって利用した。
メルランの日常的な業務のひとつとして、染髪が挙げられる。髪粉(小麦粉)を髪にふりかけ、白く色付けするのだ。もともとは白髪をごまかすためだったようだが、次第にファッション化していき、いつしか若者であっても髪を真っ白にするのが当たり前になったという。髪粉を散らすときには、お客がむせないよう円錐形のマスクを装着させた。これは、えらく滑稽な光景であるとともに、オシャレ上級者への道が険しいことを物語る場面でもある。
そして、彼らの業務に欠かせないのが整髪である。この業務が骨の折れるものだった。なにせ、平成のキャバ嬢が髪を盛るがごとく、当時のパリジャン&パリジェンヌも高層建築のように髪を盛っていたのだから。もしこの時代にファッション誌があったらどんなキャッチコピーが付いたのか、意地の悪い想像を巡らさざるを得まい。我々が思いを馳せるファッションの都の実態は、想像以上にアレな感じだったということだ。まさに、革命前夜を彩ったひとときの狂騒であった。
(illustration:斉藤剛史)