こんな仕事絶対イヤだ!

はかなき砂絵のアーティスト――飾り皿の砂型工

2017.10.25 公式 こんな仕事絶対イヤだ! 第70回

巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……

はかなき砂絵のアーティスト

飾り皿は、洋の東西を問わず愛されている装飾品のひとつだ。美しい模様が描かれた大判の皿を、棚や出窓なんかに飾ったりして鑑賞する。結婚式のいらない引き出物ランキング1位を独走し続ける「ぼくたち結婚しました!」みたいな皿も、広義での飾り皿と言えるだろう。ところが、18世紀のフランスにおいてはその意味合いが現在とはちょっと異なっていた。

食卓に観賞用として置いておく、という用途は大差ないのだが、素材がまったく違った。陶器ではなく、お盆のような大きな板ガラスを使っていたのだ。その表面に、色付けしたパン屑や砂糖菓子を散らして、鮮やかな模様を描いた。これでは時間による劣化が激しいし、子供がいたずら半分にいじりでもしたら台無しになってしまいそうだ。だが、鑑賞期限の短い“一期一会の芸術”として捉えるのならば理解できる。こうして、中世の飾り皿テクは地道な進歩を遂げていったのだ。最終的には、ガラス板の表面に卵白を薄く塗り、その上に色付けした大理石の粉を定着させるという技法をもって、飾り皿は完成の域に達した。チベット仏教で砂絵の曼荼羅(まんだら)を描いたりするが、こちらもそれに類する技術まで昇華されたということだ。

そして、おフランスの上流家庭では、一家にひとり『飾り皿の砂型工』というプロフェッショナルを雇い、日々その腕をふるわせていたという。フランス貴族文化の末期を彩る芸術として興味もわこうというものだが、前述の通り保存性は極めて低いため、当時の作品を我々が目にできる機会は皆無といってよいだろう。

(illustration:斉藤剛史)


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プロフィール

清水謙太郎
清水謙太郎

1981年3月、東京都生まれ。成蹊大学卒業後にパソコン雑誌の編集を手がける。また、フリーライターとして文房具、自転車などの書籍のライティングや秋葉原のショップ取材等もこなし、多岐に渡る分野でマルチな才能を発揮している。

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金持ちの道楽として庭で飼われた「隠遁者」、貴族の吐いたゲロを素早く回収する...
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