巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……
たばこの葉を細かく刻む職人のこと。たばこが日本に伝わったのは16世紀の中頃であるが、享保(1716~1736年)の頃にはすっかり民間に定着し、男性のみならず女性にも親しまれる嗜好品の地位を確立していた。収穫されたたばこの葉は、乾燥させたうえに細かく刻んで喫煙に適したサイズにする必要がある。そこで、賃金をもらってたばこの葉を刻む職人、『ちんこ(賃粉)切り』の出番となったわけだ。
彼らは、たばこの葉を大きめの台の上に乗せ、上から板で押さえてひたすら包丁で刻むのが仕事であった。パッと見、うどんやそばを切っているようなイメージに近い。また、客の要望に応じて細かく刻んだり、ざっくり荒く刻んだりと調節することもあった。最低限必要なのはこれらの道具と包丁研ぎ用の水桶くらいのものだったので、貧乏侍などが手っ取り早い身銭稼ぎの手段としてこの職に就くこともあったという。しかし、“ちんこ切り侍”とはお世辞にもかっこいいものではない。トム・クルーズが主演したところで、『ペニスサムライ』では女性ファンは泣いてくれぬであろう。
余談ではあるが、現在と同じく江戸時代においても男性の陰部は「ちんこ」と呼ばれていたそうだ。幼児が“ちんこ切り”という言葉を聞いて、自分のモノを切られるのではと怯えまくった、なんて川柳も残っているくらいだ。もちろんそれは笑い話のひとつなわけで、本当に幼児のちんこを切ってしまったら、それは単なる割礼である。
(illustration:斉藤剛史)