巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……
江戸時代の大阪では、街角のいたるところに桶が設置されていた。これは、尿意が襲ってきた時に用を足す小便桶であった。文政(1818~1830年)の頃で3503個もあり、男性のみならず女性までもが使用していた。当時の大阪ではその道のマニアにはたまらない光景が日々展開されていたことになる。このサービスを行なっていたのは幕府ではない。『小便仲間』と呼ばれる組合が管理していたのだ。
彼らは、大量の無償公衆トイレをこしらえてくれるボランティア精神を持っていたわけではなかった。集まった大量の尿は郊外の農家に売られていたのである。元手は桶代程度で済むわけだから、なかなかのアイデア商売と言えよう。“小便するな!”の貼り紙なら想像がつくが、この場合には“小便しろ!”とでも書いてあったのだろうか。
ただ、問題もあった。桶を設置した場所の家主と、尿の所有権を巡ってモメたのだ。尿にしてみれば「私のことでけんかしないで!」状態である。さらに、小便仲間に起因するトラブルもあった。尿を異様な高値で売りつけようとしたり、水で薄めて分量をごまかしたりしていたのだ。偽装尿とは恐れ入るが、昨今問題になっている偽装食品問題と本質は何ら変わらない。取引先の農家がどれほど小便仲間に依存していたのかは不明だが、尿で詐欺被害に遭うのではたまったものではなかっただろう。あと、遊郭の尿には何か巨大なビジネスチャンスが眠っていそうな気がするが、多分どうにもならぬであろう。
(illustration:斉藤剛史)