巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……
いまタバコといえば紙巻きのものが一般的だが、ヴィクトリア王朝期(1837~1901年)では葉巻のことを指した。また、ご多分に漏れずポイ捨てが横行しており、特にロンドン中心部のストランドからリージェント・ストリートには大量の葉巻が捨てられていた。これをきれいに拾い集めていた子供たちが、『モク拾い』だ。清掃活動でやっていたわけではない。拾い集めた葉巻を分解して、汚れていない部分の葉だけを集めてバイヤーに買い取ってもらうのだ。バイヤーは集めた葉をタバコメーカーに売り、メーカーは新しい葉と古い葉を混合して、新品の葉巻や嗅ぎタバコをこしらえるという寸法だ。リサイクルと言えば聞こえはいいが、愛煙家への重大な背信行為であろう。
手際のいいモク拾いなら1日で1キログラムもの葉を回収できたというから、よほどの量が捨てられていたことが想像できる。愛煙家も、モク拾いの子供たちがいることを知って、ひょっとしたらわざとポイ捨てしていたのではないだろうか? そう仮定すると、愛煙家自身も“忍法タバコリサイクルの術”の実態を知っていることになる。インドでは、露店でお茶を飲んだ後は茶碗を地面に叩きつけて割ってしまうのだという。そうしないと茶碗を作る人の仕事がなくなってしまうから、ということらしいが、モク拾いに関しても同じことが言えるのやも知れぬ。
今の日本で同様の事態が発覚したらJTが打ち壊しにあうことは必至であるが、リサイクル商品であることを宣言して、激安タバコを売り出したらちょっと面白い。“マイルドホーピースターライト銀河メンソール5㎎”みたいの。80円。こいつぁ革命だぜ。
(illustration:斉藤剛史)