こんな仕事絶対イヤだ!

江戸の町でパーディーグッズを売る男――百まなこ売り

2017.06.25 公式 こんな仕事絶対イヤだ! 第35回

巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……

誰でもおもしろ目&眉に変身

百まなことは、江戸時代のパーティーグッズの一種。目鬘(めかつら)とも呼ばれた。両目を覆うほどの横長の紙に、福笑いのようなおかしな表情の目と眉が描いてあり、目の部分は穴が開いていて前が見えるようになっている。紙の両端には耳に掛けるためのヒモが付いていた。ちょうどアイマスクのような使用感で、現代風に言うと“鼻メガネ”のような使われ方をしていた。西洋にもマスク着用のパーティーはあるが、百まなこでは社交界から即日永久追放であろう。悲しいほどの温度差である。ともあれ、行商人の『百まなこ売り』によっていろんなバージョンの百まなこが売られたのである。

百まなこは天明(1781~1789年)の頃に登場したもので、お座敷芸の一種として用いられた。七変化ならぬ“七変目”などと呼ばれて人気を博したようだ。この手のグッズはスベりにくいし、ましてや酒席でのこと、笑いゲロのひとつも誘ったことだろう。その後、落語家の三笑亭可上(さんしょうていかじょう)が高座に取り入れたことにより、徐々に市民の間に広がっていった。特に花見のときなどは、花かんざしと並んでよく売れたという。

かようにして、そこそこ儲かった百まなこ売りであるが、ほかにも百まなこを使ってボロ儲けした商売人がいた。それが、“百まなこ歯磨きの米吉(よねきち)”である。百まなこをつけて行なう人寄せが尋常でないほどの勢いでウケて、販売する歯磨き粉が飛ぶように売れたという。そんなにウケたんなら芸能界入りすればよかったのにと思ってしまうが、米吉は販売取次店の拡大に励み、歯磨き売りをやめることはなかった。さすがに賢い。テンション系の芸人が飽きられやすいのは、現代にも通ずる真理だからして。

(illustration:斉藤剛史)


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プロフィール

清水謙太郎
清水謙太郎

1981年3月、東京都生まれ。成蹊大学卒業後にパソコン雑誌の編集を手がける。また、フリーライターとして文房具、自転車などの書籍のライティングや秋葉原のショップ取材等もこなし、多岐に渡る分野でマルチな才能を発揮している。

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金持ちの道楽として庭で飼われた「隠遁者」、貴族の吐いたゲロを素早く回収する...
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