こんな仕事絶対イヤだ!

死んでから腐るまでが勝負――掘り出し屋

2017.06.07 公式 こんな仕事絶対イヤだ! 第30回

巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……

墓場から新鮮な遺体を盗み出せ

『掘り出し屋』とは、有り体に言って遺体盗掘人のことである。墓から遺体を掘り返し、これを外科医に売ることが仕事であった。18世紀のロンドンでは1000人を超える医学生がいたが、実習用に解剖できる遺体は処刑された罪人のものに限られた。これでは、医者の養成はおろか解剖学の進歩も望めない。そこで、盗掘された遺体が金銭でやり取りされるようになったのだ。

遺体は、新しいものであればあるほど歓迎された。人間は死んでから数日で腐敗が始まってしまうものだから、“鮮度が命”だったのである。なんとも奇妙な話だ。しかし、遺族のほうもそうそう簡単に故人を盗まれるわけにはいかない。埋葬されてから遺体の腐敗が完全に進み、“商品”としての価値が無くなるまで墓の前で見張るのである。それ以外にも理由はあった。人々は、最後の審判の日にキリストが再臨し、あらゆる死者を甦らせると信じていた。その際、自分の体が超合金ロボよろしくセパレート状態になっていては、なにかと不都合なのである。

なればこそ、掘り出し屋のほうも一計を案じた。墓地の管理人を買収して警備の手薄な場所を教えてもらったり、場合によっては引き取った遺体をそのまま横流しさせたりしたのである。故人がゆっくり眠れるはずだった場所が、虚々実々の駆け引きが行なわれるフィールドと化してしまった格好だ。しかし1832年、そんな不謹慎なバトルに終止符が打たれる。法改正が行なわれ、貧民の遺体が解剖用に回されるようになったのだ。かくして、故人たちは再び安らかな眠りを約束されることになった。

(illustration:斉藤剛史)


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プロフィール

清水謙太郎
清水謙太郎

1981年3月、東京都生まれ。成蹊大学卒業後にパソコン雑誌の編集を手がける。また、フリーライターとして文房具、自転車などの書籍のライティングや秋葉原のショップ取材等もこなし、多岐に渡る分野でマルチな才能を発揮している。

著書

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金持ちの道楽として庭で飼われた「隠遁者」、貴族の吐いたゲロを素早く回収する...
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