ザ・チームワーク

「企業理念」と「マニュアル」の意義

2015.12.17 公式 ザ・チームワーク 第2回

求められるのは「個の質」と「臨機応変さ」

こんにちは。七條千恵美(しちじょう・ちえみ)です。前回の記事では、「良質なチームワークを育むための最初の一歩は、一人ひとりが強く優しい“個”であれ!」とお伝えしました。いくら組織が高い目標を掲げても、その組織を構成しているのは紛れもなく「個」であるからです。「個々人がどんな人で在りたいのか」「どんな仕事をしてお客さまや会社に貢献したいのか」ということを見つめ直すのが、良質なチームワームの形成にとって非常に大切なことだからです。

物も情報も溢れ、生活という意味では便利になりすぎた面もある昨今、デジタル化が進み、ネットにはノウハウが無料で溢れ、何でもボタン1つで済んでしまう時代になりました。
その結果、リアルなコミュニケーション(実際に人間同士が会って対話すること)を苦手とする人が増えているように思います。
他人に興味がない、たとえ同じチームであったとしても他のチーム員に興味がない、そのような人が多い環境では、やはり質の良いチームワークは育ちません。それゆえに、チームとしての目標達成も困難になることでしょう。技術の進歩や便利な時代の恩恵は感謝して受けつつも、組織を構成しているのは「生身の人間なのだ」ということを忘れないようにすることが、やはり現代社会ではとても重要なことだと思います。

今回は「良質なチームワーク」のために必要な心の醸成は、組織内で継続して教育が行われるという前提で話を進めていきたいと思います。

企業理念とマニュアル。さまざまな職場においてマニュアルが存在していますよね。
マニュアル通りにしか動けない人材が増える中、私も時に反マニュアル説を唱えることもあります。しかし、正確に私の想いを伝えるならば、「マニュアルは最低限の安全やサービス品質を保つためには必要」だと思っています。
問題なのは、マニュアルが存在することではありません。本質的に問題だと思うのは、マニュアルに書いていないことや、マニュアルの解釈に迷う場面に遭遇したときに、適切な判断ができない人材が増えていることです。
マニュアルはあくまでも「手順」の列記にしかすぎません。しかし、その手順書の存在に縛られて、最も大切である「企業理念」が置き去りになるケースが少なくないということ、それが私の最も危惧することなのです。

マニュアルの行間を読め

たとえば、サービス品質にこだわりをもつCAの世界にも、このような混乱があります。エコノミークラスには、お客さまのお召しものを預かるためのコートルームはありません。それゆえに、決まりごとでいえば、その「手順」はありません。それにいくら「すべてのお客さまに最高のサービスを提供したい!」と思ったとしても、すべてのエコノミークラスのお客さまのお召し物を預かることは困難です。物理的に収納スペースもありませんし、そのサービスに対応する乗務員の数からみても、やはり難しいものです。
とはいうものの、一生の記念となる海外での挙式のために、機内にウェディングドレスをお持ち込みなったお客さまからのお申し出の場合はどうでしょうか?

こんなときこそ、チームワークがおおいに問われます。私と一緒にフライトした多くの仲間たちは、「一生の思い出となる挙式で着るドレス、シワにならないように何とかしてお預かりしたい」という想いを持っている人がほとんどでした。
たとえ、そのお客さまがエコノミークラスのご利用であったとしても、迷うことなくビジネスクラスやファーストクラス担当の乗務員と連携をとり「上位クラスにあるコートルームにドレスを収納するスペースがあるかどうか」「到着してからどこで誰がどのタイミングでお客さまにドレスを返却するのか」さらに「その情報を誰がお客さまにお伝えするのか」「ドレスが皴にならないように、そして、万が一でも汚すことがないようにとの注意喚起をどのように徹底するのか」などを即座にチームで考えて対応し、すべて滞ることなく進んでいきました。そこには、マニュアルの縛りはありません。あるのは、大切にしたいと思っているお客さまの「安心と笑顔」、追い続けたい目標や企業理念だけなのです。

さらに付け加えるとするならば、いくらサービスマニュアルに「○○をすること」と書いてあったとしても、それに従わないこともあります。それは、そのサービスが状況によってお客さまの安全や満足度を満たすことにならないと判断されたときです。

つまり、企業理念の遂行や目標達成に必要なチームワークを育むためには「仲間たちとどこに向かっているのか」ということを明確にすることが大切なのです。マニュアルはあくまでもマニュアル。最低限の品質を保持するために必要なものではありますが、手順に縛られることよりも、「仲間と共に向かう先を明確にすること」で、より一層チームとしての結束力は強くなるのです。

「マニュアルの行間を読め」。これは私が新人の時に先輩CAから言われた言葉です。
今でこそ、長年の乗務員経験やサービス訓練教官の経験を元に記事を書き、研修や講演をする立場ではありますが、こんな私にも可愛い新人CAの頃がありました(笑)。同じチームでフライトする中で新人の役割、ベテランの役割、リーダーの役割があります。そして、それらのバランスがうまく取れているとき、チームは大きな力を発揮することができると思います。

次回はそうした中の具体的なお話しをさせていただきたいと思います。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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プロフィール

七條千恵美
七條千恵美

同志社大学卒業後、国内の大手航空会社に入社。お客様から多くの賞賛をいただいた客室乗務員に贈られるDream Skyward賞を受賞。
さらには、その中でも際立った影響力を持つとしてDream Skyward優秀賞を受賞。皇室チャーターフライトの選抜メンバーにも抜擢される。2010年より、客室教育訓練室サービス教官として、1000人以上の訓練生の指導にも従事。会社評価は最上級のS評価を受けるなど、CAとしても教官としても数々の実績を残す。現在は株式会社GLITTER STAGEの代表取締役として、企業研修や人材育成など、さまざまなビジネスシーンで、強い牽引力と高いスキルを存分に発揮しながら活躍中。

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