Nさんは、本来の評価項目である売上数字とは直接関係のない商談件数や、レポートの文章量などが評価の対象となったことにより、「今までのやり方を否定されている」と感じているのではないかと、私は考えました。課長職である私が、会社や上層部から怒られないように、部下を管理しすぎていたことにも原因があります。
会社の上層部から降りてきた指示は、会社の立場となって考えてみれば理解できると決めつけ、Nさんの気持ちを考えていませんでした。お客様に信用され、仕事ができて営業成績がいい人よりも、多少は営業成績が悪くても、会社の指示通りに仕事をこなす人の方が、結果的に、評価が高くなってしまうと受け取れる内容です。
これでは、Nさんは、上司である私から信用されていないと考えてしまっても仕方がありません。私はそれを分かっていながら、「会社の指示通りに、実践するべきだ」と思い込んでいたのです。
そこで私は、Nさんに対しては、あえて商談件数や新規開拓件数などの数字を管理したり細かい指示をせず、Hさんを信用して任せるとこにしました。もともとNさんはお客さまに好かれており、こちらが何もしなくても、営業成績を上げることに問題はありません。その中で、新しく扱う商品の商談件数、新規開拓の件数、レポートの文章量などに関しては、Nさんがやるかやらないかは本人の選択に任せ、私は何も口を挟まないことにしました。
私が口を挟まず管理しなくなると、Nさんは、昔のように元気になり、イキイキとして、営業活動に励むようになりました。すると課長である私との仲も、少しずつ修復され、以前のように会話ができるようになっていったのです。やはりNさんには、上層部からの指示を押し付けるような形ではなく、Nさん自身の個性や成果、人間性を私がきちんと受け入れ、Nさんと真剣に向き合ったことで、Nさんの気持ちにも変化が出できたのだと思います。
その甲斐あってか、その後のNさんは今まで通りの営業活動に加え、新しく扱う商品の商談や新規開拓なども、自分で時間を調整して件数をこなすようになりました。レポートに関しても、前よりも丁寧に書くようになってきたのです。
私が組織の上層部を見すぎて、上層部に報告しやすい仕事をメインにし、今までの営業活動の実績をきちんと評価しなくなっていたのです。営業の仕事は、とにかく営業成績を上げることが重要なことです。そこを、私が見失っていたのです。
あまり言うことは聞かないかもしれませんが、自分でやることをやる部下は、どの組織にもいます。言うことを聞かないうえに、仕事ができない場合は、上司が管理することも必要です。
しかし、仕事ができる部下に対しては、まず、上司が部下を「信用すること」から始めなければなりません。そう、部下を信用することが一番大切なのです。そして、部下のやることにいちいち口を挟まず、すべてを任せきってみることが非常に重要なのです。
彼らは、それぞれ自分の仕事に誇りと独自のノウハウを持っており、人に指示されたりして、自分のスタンスを崩されたくないのです。上司はそこをきちんと理解し、部下には会社の事情などを一方的に押し付けることなく、逆にどうすればより彼らが今以上にイキイキと仕事ができる環境をつくれるかが、まさに上司の仕事なのです。
自分にもそうして悪い手本の上司時代がありましたが、双方の気持ちが分かる今の私としては、やはり上司が人間として部下を理解・信頼し、仕事を任せきることこそ、実は上司と部下の信頼関係の構築につながるのだと、自身の経験で学びました。
次回に続く