前述のように、新入社員であるOさんには、Oさん世代なりのモチベーションの維持の仕方がある。そう考えた私は、課長だからとこちらの感性を一方的にスタンダードなものだとは決めつけないようにしました。そしてOさんには、「同じ会社で働く一人の人間として接するべきではないか」と、彼に対する視点を変えてみたのです。
まず、新人のOさんに、私が疑問に思うことを、1つ1つ聞いてみることにしました。そうすると、意外な答えが返ってきたのです。
電話を取ることも、片付けをすることも、宅急便の荷物を受け取ることも、私から指示されていないし、先輩からも聞いていないから、やっていいかどうか分からないとのことなのです。お客様先の営業訪問に関しても、どうやって営業したらいいか分からないから、悩んでいるということでした。Oさんは、少しでも頑張って仕事を覚えよう、早く上司や先輩に認められるようになりたいという気持ちは持っていました。しかし、仕事をどのようにこなしたらいいのか、理解できていなかったのです。
そこでまずは、1つずつではありますが、課として彼にやって欲しい業務を、こと細かに伝えることにしました。「自分で気づいて行動して欲しい」とどこかで思いながらも、1つひとつ教えることを続けたのです。すると、やっとOさんは自分自身で理解できたようで、少しずつ自主的に動くようになりました。
その時私が意識したことは、昇級による給料アップやボーナス査定の話しをすることは最小限にとどめ、「責任のある仕事を覚えることがOさんの今後の成長に役立つ」ということ、「Oさんの仕事のおかげで、会社が社会の役に立っていること」など、Oさんが関わることによって生まれる社会的な存在意義を説明しました。つまり、モノやお金ではない、別のモチベーションになりそうな言葉を選んで伝えたのです。
するとOさんは、私の説明に納得してくれた様子で、徐々に仕事に対する姿勢や意欲も変化してきました。その後も私は、Oさんのモチベーションが上がるような言葉をかけたり、影ながら支援することで彼のことをバックアップしていきました。
Oさんは仕事に関しての意義や意味を自分自身で納得できると、その後の動きは早かったのです。彼は、会社や上司に期待され、責任のある仕事を任されたことで自信がつき、仕事を積極的にこなすようになっていきました。Oさんが戦力になったおかげで営業所の成績にも貢献してくれ、会社にも必要とされる人材になってくれたのです。
今の若者は向上心がない、出世欲がない、やる気がない、指示待ち姿勢だなど、世間ではいろいろとネガティブなことが言われています。実際に私も、課長として若者の部下と関わったとき、最初はそのように感じていました。
しかし本当は世代間のギャップを理解し、「一人の人間として接すること」がとても大切なのです。若者の本音を話してもらう機会を作ること、会社や組織の都合ではなく、仕事を通して貢献する社会的な存在価値、存在意義などを示してあげること、少しでも責任のある仕事を任せることによって当事者意識が芽生え、彼らは成長していくという一例を、Oさんを通じて私は感じることができました。
時代は常に変わっていきますが、やはり変わらず大切なことは「新人だから○○」という旧態依然とした考え方ではなく、たとえ新人であっても「一人の人間として接し、責任ある仕事を任せること」が重要なのだと思います。人の自発性に火をつけるためには、その人を新人ではなく「一人の人間」として認め、その人を信じて任せ、そこに寄り添う形で上司がサポートする。こうしたスタイルで仕事をするのが大切なことだと、私は思っています。
次回に続く。