問題なのは、組織(チーム)全体のあり方です。ここでは、たいていの場合、「Aさんが悪い!」と目がいってしまいがちなのですが、このような組織の体質だからこそ、きちんと教育されていないAさんが、お客様にいい加減な対応をするようになってしまったのです。
そこで私は、まず組織全体のレベルアップを優先することにし、並行してAさんを育成することにしました。Aさんばかりに営業の状況や案件の報告を義務づけても、営業所のパフォーマンスが上がるわけではありませんし、他のメンバーがそう簡単に変わるわけではありません。だからこそ、組織全体の改革を進めつつ、Aさんを育成しようと試みたのです。
まずは、営業所独自の間違ったローカルルールから手を付けました。営業所の営業担当者には、どこまで案件が進んでいてどのような状況なのかを、定期的に全員が把握できるパソコンのフォーマットを通して、営業所全体で共有するようにしました。同じように、アシスタントにも困った状況であれば自分たちで判断せず、上司である私に報告してもらうようにしました。
すると次第に全員に、自分たちで改善できる部分は少しずつ改善させようという空気が生まれはじめたのです。図面もみんなで苦労してすべて揃えたので、その後、図面を探す時間も大幅に短縮されました。
また、他のメンバーに刺激されたのか、次第にAさんもだんだん案件を報告するようになり、そこで出た問題を1つひとつ潰していくうちに、彼の仕事も整理されてきました。さらに、少し経つとAさんにも自信がついてきたようで、以前より報告もスムーズになり、活動的にもなりました。
全体を見ながらAさんを育成し、少しずつ修正していったことで、営業所の意識が大きく変わり、みなが協力して仕事をするようになりました。そうなると、営業所の成績も不思議とよくなってきたのです。その結果、Aさんも大きく変わり、組織全体のパフォーマンスが上がり、この営業所は大きく変わってくれました。
課長になれば、メンバーの中に、必ず全員が全員、同じ方向を向いて同じスキルを発揮できるわけではありません。ですが、もっと大きな視点から組織全体を見ることと、小さな視点での問題解決を平衡して行うバランス感覚。これがやはり大切なのだと、私もこの一件で痛感しました。
「木を見て森を見ず」という諺にもあるとおり、物事の一部分や細部に気を取られすぎると、全体を見失うことになってしまうのです。
課長にとって部下とは、基本的には1人ではないはずです。その1人や2人にだけ注力してしまうと、他の人とのバランスが悪くなってしまいます。バランスが悪くなると、組織全体の成績が上がらなくなったり、全体の雰囲気が悪くなり、ひいては全員のパフォーマンスの低下につながってくるのです。
「木」か「森」のどちらかに注力するのではなく、その両方がいい影響を伝染させるような組織づくりが大切なのです。人材の育成と組織の改革。これは一見別のようでいて、ベクトルが上に向けば、実は相互にアップしていくものなのです。
次回に続く