人を育てるコツ

課全体の成果が出ないとき、どうするか?

2016.12.01 公式 人を育てるコツ 第1回
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組織全体の改革が個々の人材育成につながる

問題なのは、組織(チーム)全体のあり方です。ここでは、たいていの場合、「Aさんが悪い!」と目がいってしまいがちなのですが、このような組織の体質だからこそ、きちんと教育されていないAさんが、お客様にいい加減な対応をするようになってしまったのです。

そこで私は、まず組織全体のレベルアップを優先することにし、並行してAさんを育成することにしました。Aさんばかりに営業の状況や案件の報告を義務づけても、営業所のパフォーマンスが上がるわけではありませんし、他のメンバーがそう簡単に変わるわけではありません。だからこそ、組織全体の改革を進めつつ、Aさんを育成しようと試みたのです。

まずは、営業所独自の間違ったローカルルールから手を付けました。営業所の営業担当者には、どこまで案件が進んでいてどのような状況なのかを、定期的に全員が把握できるパソコンのフォーマットを通して、営業所全体で共有するようにしました。同じように、アシスタントにも困った状況であれば自分たちで判断せず、上司である私に報告してもらうようにしました。

すると次第に全員に、自分たちで改善できる部分は少しずつ改善させようという空気が生まれはじめたのです。図面もみんなで苦労してすべて揃えたので、その後、図面を探す時間も大幅に短縮されました。

また、他のメンバーに刺激されたのか、次第にAさんもだんだん案件を報告するようになり、そこで出た問題を1つひとつ潰していくうちに、彼の仕事も整理されてきました。さらに、少し経つとAさんにも自信がついてきたようで、以前より報告もスムーズになり、活動的にもなりました。

全体を見ながらAさんを育成し、少しずつ修正していったことで、営業所の意識が大きく変わり、みなが協力して仕事をするようになりました。そうなると、営業所の成績も不思議とよくなってきたのです。その結果、Aさんも大きく変わり、組織全体のパフォーマンスが上がり、この営業所は大きく変わってくれました。

課長になれば、メンバーの中に、必ず全員が全員、同じ方向を向いて同じスキルを発揮できるわけではありません。ですが、もっと大きな視点から組織全体を見ることと、小さな視点での問題解決を平衡して行うバランス感覚。これがやはり大切なのだと、私もこの一件で痛感しました。

「木を見て森を見ず」という諺にもあるとおり、物事の一部分や細部に気を取られすぎると、全体を見失うことになってしまうのです。

課長にとって部下とは、基本的には1人ではないはずです。その1人や2人にだけ注力してしまうと、他の人とのバランスが悪くなってしまいます。バランスが悪くなると、組織全体の成績が上がらなくなったり、全体の雰囲気が悪くなり、ひいては全員のパフォーマンスの低下につながってくるのです。

「木」か「森」のどちらかに注力するのではなく、その両方がいい影響を伝染させるような組織づくりが大切なのです。人材の育成と組織の改革。これは一見別のようでいて、ベクトルが上に向けば、実は相互にアップしていくものなのです。

次回に続く


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プロフィール

大岩俊之
大岩俊之

理系出身で、最新のエレクトロニクスを愛する元営業マン。
大学卒業後、電子部品メーカー、半導体商社など4社で法人営業を経験。いずれの会社でも、必ず前年比150%以上の営業数字を達成。200人中1位の売上実績を持つ。
独立起業を目指すなか、「成功者はみな読書家」というフレーズを見つけ、年間300冊以上の本を読むようになる。独立起業後、読書法やマインドマップ、記憶術などの能力開発セミナー講師をしながら、法人営業、営業同行、コミュニケーション、コーチングなどの研修講師として7,000人以上に指導してきた実績を持つ。年間200日以上登壇する人気講師として活躍している。
主な著書に、『格差社会を生き延びる“読書”という最大の武器』(アルファポリス)、『読書が「知識」と「行動」に変わる本』(明日香出版社)、『年収を上げる読書術』(大和書房)、『1年目からうまくいく! セミナー講師超入門』(実務教育出版)などがある。

著書

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