ビジネス駆け込み寺

急遽家業を継いだものの、課題が山積して困っています

2016.05.02 公式 ビジネス駆け込み寺 第15回

急遽家業を継いだものの、課題が山積して困っています

病で倒れた父の跡を継ぎ、2ヶ月前に急遽社員15名ほどの実家の町工場の社長となった、37歳の男性です。

家業は精密機器の部品を製造しているのですが、父が病に倒れるまで、私自身は食品メーカーの品質管理部門で係長をしていました。

よって仕事の内容はまったく違うものになり、そこに自分をアジャストさせるのが精一杯な状況の中で、いきなりやってきた二代目社長に対し、社員の多くが私のことをよく思っていないのが手に取るように分かります。

現在は社長として経営の勉強をしながら家業の実務の勉強も並行していますが、よくある話のとおり、私に反発する多くの社員との摩擦で社内の空気は悪くなり、一部では辞職をほのめかしている社員もいるほどです。

何とか改善を試み、父が残してくれたこの町工場をいろいろな意味で建て直したいのですが、経営的にも悪化傾向であるのに加え、社内の空気も最悪。

もちろん私も新参者として全社員に敬意を持って接しているつもりなのですが、なかなか溝が埋まりません。

経営の部分はさておき、私はこれから社員との間でどんな課題から取り組み、どうこの職場を立て直していったらいいのでしょうか? 

工場経営者(精密機器製造) / 37歳 / 男性

「温故知新」という言葉を思い出してください

お亡くなりになられたお父様の跡を継ぎ、急遽社長になられたとのこと。しかも、まだ2ヶ月しか経過していないということですから、きっと適応するのに大変苦労されているのだと思います。また、お父様がお亡くなりになってからまだ日も浅く、悲しさも残る中、本当に辛い状態だとお察します。どうか精神的な疲れから、体調を崩れないことを願うばかりです。

お悩みを拝見させて頂きました。いろいろな思いが交錯し、混乱されている様子がよく伝わってきました。これから少しの時間だけ何も考えず、私がお話することに耳を傾けて頂ければ幸いです。

まず、焦りは禁物です。今、「これまでと違った仕事の内容に慣れよう」「社長として会社を盛り立てよう」「社員をまとめよう」と、さまざまな思いや責務を背負っていらっしゃると思います。ですが、これらをすべて一度に解決することは、あまりにも身体的にも精神的にも負担がかかっていまい、非常に難しいことです。
もちろん、これらはすべて繋がっていることなので、どれを最優先に取り組むべきかというのは大変悩ましいことだと思います。しかし、その中でも私があなたにおすすめしたいのは、「会社を知る」ということです。これは、別の言い方をすれば、あなたのお父様と会社の社員の皆さんを知るということでもあります。

ここで「温故知新(おんこちしん)」という言葉を紹介させて頂きます。これは、「故(ふる)きを温(たずね)て、新しきを知る」と書き下します。つまり、過去の事例や物事の由縁を尋ねることによって、新しい発見やアイディアを得るということです。

まずは「会社を知る」ことが今は一番大切です

メールを拝見すると、「社長として経営の勉強をしながら家業の実務の勉強をしています」とありました。これは重要なことですが、私はお父様がどのような思いと信念で会社と社員の皆さんを守ってこられ、また社員の皆さんはどのような思いと信念を持って前社長であるお父様の下で会社に尽力されていたのかということを理解することが、今は一番大切なのだと思います。もちろん、あなたが社員の皆さんに敬意を持って接していらっしゃるのはメールからも感じ取れます。しかし、もう一歩深い理解が必要なのかもしれません。

会社や職場には、これまで社員全員が体験した苦労や喜びから生まれた思いが詰まっています。それが、その会社独自の仕事環境や信念を形成しているのです。まずは、そのことを深く理解しなければ、参考書に書かれているような冷たい実務的な会社のマネージメントはできても、人と人が繋がりあって働く「温かな会社」の運営はできないと思います。

この「会社を知る」というステップの後に、社員さんとの関係の改善があるのだと思います。あなたが必死に会社と社員を知ろうという姿勢を見せれば、自ずと社員の皆さんの心も変化してくると思います。

そして、その先にあなたが別の会社で学んだ経験が活かされてくるはずです。
最初から新しいことをする必要ありません。会社が時間をかけて独自の仕事環境や信念を育んできたように、あなたという社長としての独自性も、時間をかける中で社員の皆さんと共に作られていくのです。経営の悪化というものも当然怖いと思いますが、人はよい環境がなければ、いい仕事はできません。きっと今は、過去から学ぶ時期なのだと思います。社員の皆さんが気持ちよく働ける環境や状況作りに力を入れることが、ひいては経営の改善にも繋がるのではないでしょうか。

「雨降って地固まる」という言葉があるように、最初から物事は上手くなどいきません。しかし、止まない雨がないように、必ずあなたの努力は反映されていくはずです。そうしていく中で、これまで目には見えなかったお父様の姿に出逢われるのではないでしょうか。

どうか会社と社員の皆さんを大切に思う心を、これからも忘れず大切にして下さい。そして、社員の皆さんに支えられた、あなたらしい会社の運営が生まれることを、私は切に願っております。


尚、私事で大変恐縮ですが、先日「端楽(はたらく)」という書籍を出版させていただきました。この連載がきっかけとなって生まれた本です。
きたる5月12日に、東京・恵比寿にある寺子屋ブッダにて、この本のサイン会とトークショーを開催致します。ご都合の合う方は、是非ご参加いただければと思います。
イベントの詳細については「寺子屋ブッダ / まちのお寺の学校」にて、ご確認をお願い致します。

協力:寺子屋ブッダ

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プロフィール

大來尚順
大來尚順

浄土真宗本願寺派 大見山 超勝寺 住職
著述家/翻訳家

1982年、山口市(徳地)生まれ。龍谷大学卒業後に渡米。米国仏教大学院に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。僧侶として以外にも通訳や仏教関係の書物の翻訳なども手掛け、執筆・講演・メディアなどの活動の場を幅広く持つ。2019年、龍谷大学 龍谷奨励賞を受賞。著書に『あなたは、あなた。』(アルファポリス)『超カンタン英語で仏教がよくわかる』(扶桑社) 『小さな幸せの見つけ方』(アルファポリス)など多数。

著書

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