よく「心」を「亡す」と書いて「忘れる」「忙しい」と言いますが、まさに現代の私たちの姿を言い当てている気がします。残念なことに、日々の忙しい生活の中で、すべて自分を中心にして考える癖が身についているが故に、自分を取り巻く周囲の人々や環境について深く考え、受け止め、感謝する心を忘れている人が多いように思います。
私がバスの中で聞いた子どもたちの「ありがとう」という大きな声は、「心の余裕」から生まれた穏やかな気持ちの現れなのです。心に余裕があるから、物事の表面だけではなく、その裏にある目には見えない繋がりが想像できたり、把握できたりします。そうすると自然に「ありがとう」という言葉が口から溢れ、頭も下がるものだと思うのです。
皆さん、子どもの時にはできていたのに、今はできていないことはありませんか? それは「心の余裕」を持っているかどうかということです。これは物事に対して凝り固まった先入観もなく、素直で温かい心です。この「心の余裕」は、昔はみんな持っていたのではないでしょうか。しかし、いつの間にかどこかに置き忘れてしまったのかもしれません。では、どこに置き忘れてしまったのでしょうか? それは、皆さんの心の奥底です。
もし、もう一度この「心の余裕」を取り戻そうとするならば、ちょっとしたことでも勇気を出して、周囲の方に「ありがとう」という言葉を口にすることから始めなければなりません。
実際、私たちは周囲のたくさんの支えの基に日々の生活をおくっています。中には目には見えないものもあります。この事実を別の言い方で表現すると「生かされている」ということになります。何一つ当たり前のことなどないのです。
私たちは周囲の方々と持ちつ持たれつの、助け合いの関係性にあります。本来ならばいつでも「ありがとう」という気持ちと言葉が飛び交うはずなのですが、現実はそうではありません。
しかし、「ありがとう」という言葉を口にし続けることで、少しずつですが忘れていた「心の余裕」が蘇ってきます。すると、忘れていた人や物との繋がりが見えたり感じたりすることができ、自然と心が温かくなったり、一人ではないという安心感を持てるようになります。
子どもの時のように、日常生活のさまざまな場所で、素直に「ありがとう」と口にできるというのも、実は小さな幸せの一つなのかもしれません。