中小企業やベンチャー企業には、基本的に「人事」という部署がないことが多いです。総務部などに人事担当者がいて、1人で人事業務を担っていることが多く、「ひとり人事」、あるいはSNSなどでは「ぼっち人事」と呼ばれています。
そもそも人事担当者が存在せず、経営者が自ら人事を兼務している会社も少なくありません。営業をやっていた社員が、ある日突然「あなたは今度から人事です」と言われて、何の知識も経験もないまま「ぼっち人事」になったりもします。
さて、いきなり人事に任命されたら、まずは何からするべきなのでしょうか?
よく聞くのは「社会保険労務士の勉強をする」「衛生管理者やキャリアコンサルタントの資格をとる」「給与計算について学ぶ」といった話です。これらの勉強や知識は、もちろん大切です。しかし最初にやるべきことではありません。
また、「とりあえず社員みんなにヒアリングしてみる」という人もいます。1人ひとりの意見や会社への不満を聞き、人事施策に反映する。それも大事ですが、やはり最初にやるべきことではありません。むしろ「いちばん最初にやってはいけないこと」と考えてもらったほうがいいでしょう。
社員の考え方は、人それぞれ違います。いきなり何十人、何百人の話を聞いてしまったら、逆に何をすればいいのか混乱するだけ。社員に話を聞くのは、順序としてはもっと先のフェーズになります。
ぼっち人事が最初にやるべきことは、経営者との対話です。
人事に任命されたら、まずは社長と話をしましょう。
なぜ経営者との対話を真っ先にすべきなのでしょうか。それは「優先順位」をつけるためです。人事という領域は、実はとても幅広く、やるべきことが多岐にわたります。次の図は、人事業務の全体像をまとめたものです。
やるべきことが、ものすごくたくさんありますよね。1つひとつの説明は、ここでは省略します。まずはこの全体像だけ覚えておいてください。
人事と一言でいっても、「人事・採用」「給与・厚生」「育成・評価」という3つの分野があり、「戦略」「企画」「運用・管理」「オペレーション」という4段階の職務があります。
大企業では、人事企画課、人事採用課、人事教育課、給与厚生課といった部署があり、人事業務が細分化されていることもありますが、中小企業やベンチャーの「ぼっち人事」は、これらを1人で、あるいは数名の派遣さんやパートさんと協力しながら、全部の人事業務を担うことになります。
はっきり申し上げて、これはかなり大変です。だからこそ、まずは経営者と話をして、何からやるべきか、「優先順位」をつけることが非常に重要なのです。
へたに「社会保険」などの勉強から始めてしまうと、大事なことではあっても面白くはないため、人事業務そのものが嫌になってしまうかもしれません。上記の図の「オペレーション」に関する業務は、社会保険労務士さんに依頼するなど、アウトソーシングすることも可能です。急いで覚える必要はありません。
まずは経営者、あるいは人事担当者に任命した部長や役員と話をして、「人事に期待していることは何ですか」「何から始めたらいいですか」と聞いてみてください。新たに人事担当者を任命したということは、経営者には何かしらの課題感があるはずです。それを把握することから「ぼっち人事」の仕事は始まります。