社員成長の決め手は、人事が9割

社員の「異動希望」はどう対応すべき?――「人事異動」の考え方

2023.11.22 公式 社員成長の決め手は、人事が9割 第13回

② 一人ひとりの中長期的なキャリアパスを考える

人事担当者がやるべきことの2つ目は、社員一人ひとりが成長できるキャリアパスを考えること。人事異動の基本は「本人の希望」ですが、それぞれの将来を考え、人事から提案することも必要です。

本人が異動を希望していなくても、会社や世の中の変化によって、その部署の必要性がなくなることもあります。そのまま同じ仕事を続けていければいいのですが、そうなるとは限りません。仕事そのものがなくなってしまったら悲劇です。ずっと同じ仕事を続けていると、他で使い物にならなくなるリスクがあるのです。

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「このままこの部署にいたいです」という人を無理に動かす必要はありませんが、それぞれの中長期的なキャリアを考え、そのうえで人事異動のプランを考え、経営者や部門長、管理職などに提案していく。これもまた人事の重要な役割です。

特に将来的に経営を担える人材は、さまざまな部署を経験させる必要があります。それが営業部門のエースであっても一回現場から離して管理部門に異動させたり、営業→企画→人事といった異動ローテーションを組んであげることも大事です。

また、現場で長年店長をやっていた人は、BtoCに慣れすぎてしまって、BtoBができなくなったりします。そこに浸かり切ってしまう前に異動させなくてはいけません。経営や現場に反対されても、喧嘩してでも説得する。これも人事の役割です。

異動によって様々な経験を積ませていくローテーション人事と、中長期的な展望を持って個々の人材育成を考えるパーソナルな人事。人事担当者は、どちらの視点も持つべきでしょう。

③ 話を聞くだけではなく、実際に希望を叶える

人事担当者がやるべきことの3つ目は、個々の話を聞くだけではなく、本当に実現させること。一人ひとりの希望を叶えるために手を尽くして、実際に異動を実現させることが何よりも重要になります。当たり前のことですが、話を聞くだけでは意味がないのです。

それぞれの話を聞いて、3年後、5年後にどうなっていたいのか、社員一人ひとりのキャリアビジョンやライフビジョンを確認する。拠点がある会社なら、ときどき各拠点を訪れて「最近どうですか」と話を聞く。ただし、話を聞くだけではダメです。

個別に話を聞いたら、その結果を10%でも15%でも実現させなくてはいけません。「人事と話したら希望の部署に異動になったらしいよ」と社内で噂になるような行動をしてこそ、人事への信頼が高まり、社員の会社を見る目が変わるのです。

また、上司と部下の相性が悪いと、たちまち部署全体の空気が悪くなることが往々にしてあります。そのあたりにも目を光らせて、しばらく見守るべきなのか、どちらかを動かすべきなのかを判断をして必要な手を打つことも大事です。

上司と部下、どちらに問題があるのかは、人事評価を見ればある程度判断できます。可もなく不可もなくみたいな評価をしている管理職は、部下をちゃんと見ていない証拠です。客観的に見て、高すぎる評価・低すぎる評価をしている場合も同様です。管理職の力量は、人事評価を見ればわかります。

自己申告制度を実施したときの異動希望の多さも目安になります。異動希望が多すぎる部署は、上司側に問題があると考えて、ほぼ間違いありません。「これはしんどいな」と判断したら、早急に上司を動かす必要があるでしょう。

一方、部下側に関しては、本人と直接面談をしたり、周囲の評判を聞くことによって、本人自体に問題があるのかどうかを判断しやすくなります。

問題がある人の周囲が病気になったり辞めてしまったりしたら困るので、その人の異動を早めに働きかけましょう。こういうことは現場をちゃんと見なければ判断できません。

外資系や大きな会社にはHRビジネスパートナーと呼ばれる部署ごとの状況を専門的に見る人事担当者がいたりしますが、会社の規模が小さければ、社員一人ひとりと話をすることが可能です。

個々の希望を聞いて、できる限り実現する。客観的に見て異動が必要だと判断したら、早急に対処する。人事異動や人材配置は失敗もあるため、その覚悟は必要ですが、思い切った人事異動を促すことによって会社をより良く変えていきましょう。

次回につづく

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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