話しやすい人になれば人生が変わる

感じがいい人、感じが悪い人、違いが生まれる3つのポイントとは?

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フランクな神対応が素敵だった、女性歌手のAさん

これまで、話しやすい人になるためのさまざまなテクニックやマインドなどについて、私なりの考えをお伝えしてきましたが、今回はやや趣向を変え、私が今まで出会ってきた「話しやすい人」たちについてお話ししたいと思います。

一人めは、シングルでもアルバムでもミリオンセラーを出したことのある、大物女性歌手のAさん。
私は10代の頃からAさんの歌が好きでよく聴いていたのですが、15年ほど前に、ある音楽雑誌の仕事で、Aさんにインタビューすることになりました。
20年間憧れ続けた人と直にお話しできるのですから、もう、ドキドキです。

そして迎えた取材当日。
直に見るAさんは、やはりとても美しく、スッと背筋の伸びた素敵な方でした。

「あのアルバムのあの曲が好きです」といった話をしたいのは山々でしたが、その日のミッションはあくまでも、Aさんのニューアルバムに関する取材。それに、取材に来たライターがやたら熱くAさん愛を語っても、警戒されるか、困らせてしまうかのどちらかになってしまう可能性大です。

そこで私は、「昔から、Aさんの歌声や曲がとても好きなので、今日はお目にかかれてとても嬉しいです」程度のことだけ伝え、大きなテーブルを挟んで、Aさんの向かい側に座ったのですが、さすがに緊張し、直視することもできませんでした。

するとそのとき、Aさんがとんでもないことを口にしました。
「これだと、ちょっと距離が遠いですよね? 角のところに座りませんか?」
そして自ら椅子を立ち、さっさと角に座ったのです。まさに神対応……。
「角を挟んで、あのAさんの真横に座るなんて、そんなことがあっていいのかしら」と喜びつつ動揺しつつ、私は「そうしましょうか」などと、つとめて平然を装いながら移動しました。

それからインタビューを開始したのですが、Aさんは思っていた以上に饒舌な方で、一の質問に対し十どころか、二十、三十くらいの答えを返してくださいました。後で原稿にするとき、あまりにも情報量が多くて、どこを生かしどこを削るかに頭を悩ませたほどです。
しかし、飾り気がなく適度にサバサバしていながら、雰囲気も声も語り口もきわめてソフト。かつて恋愛がらみのスキャンダルもあった方ですが、実際にお話ししてみると、あらためて「モテるのもわかる……」と思わざるをえませんでした。
取材中、最初から最後までとにかく話しやすく感じのいい方で、私がますますファンになったのは言うまでもありません。

大変な状況の中で丁寧に質問に答えてくださった、男性歌手のBさん

二人めは、長いキャリアを持ち、俳優としても活躍されている、男性歌手のBさん。
Bさんも、ある雑誌の仕事で取材したのですが、待ち合わせ時間になったとき、「少し遅れる」という連絡がありました。

やがて現れたBさんは、テレビで拝見するイメージどおり、感じよく丁寧に「遅れてすみません」とおっしゃいましたが、何か気になることがあるらしく、インタビュー中、時折一緒にいた方に何かを確認したり、(きちんとこちらに断りを入れつつ)電話に出られたりしていました。
それでも、こちらの質問には嫌な顔一つせず、すべての質問にやはり丁寧に、快活に答えてくださり、取材自体は無事に終わりました。

Bさんのごく近しい人が、ある事件を起こして逮捕されたというニュースを知ったのは、その翌日のことでした。
おそらく取材の直前に、Bさんの元に知らせが入ったのでしょう。
遅れたのも、少し落ち着かない様子だったのも、そのためだったのだと思います。

しかし、取材中は、まさかそんな大事件が起こっていたなどとはみじんも感じさせない、完璧な「話しやすさ」でした。
「仕事だから当たり前」と言ってしまえばそれまでですが、もし私が同じような状況に置かれたら、あんなにも冷静に、的確に取材に応じることができるかどうかわかりません。
あらためて「さすがプロ……」と思いましたし、Bさんが芸能人のみなさんの間でも人気が高い理由がわかったような気がしました。

もしかしたらAさんやBさんも、家族や身近なスタッフに見せる顔はまた違うかもしれませんが、私にとって「話しやすい人」「感じがいい人」だったのはたしかです。

友人から聞いた、話しにくい大物女優・Cさんのエピソード

ほかにも、これまでさまざまな方に取材をしてきましたが、みなさん一人残らず話しやすく、感じがいい方ばかりでした。
そのため、「著名人って、『性格がきつい』と言われがちだけど、取材となるとやはりみなさん、こんな一介のライターにも丁寧に接してくださるのかな」と思っていたのですが、どうも、そうは言い切れないらしく、ほかのライターさんからは、しばしば「取材に苦労した」という話を耳にすることがあります。

たとえば、主役級の大物女優のCさん。
もうずいぶん前のことですが、あるドラマにCさんが出演され、そのプロモーション記事を書くため、私の友人が取材をしました。

ところが、当時、「楚々とした美人」というイメージが強かったCさんですが、友人が「真夏の撮影はいかがですか?」と尋ねても「暑かった」と答えるだけ。
あまりにも忙しく、ストレスがたまっていらっしゃったのかもしれませんが、とにかくすべての質問に対する答えがそのような調子だったため、とてもそのままでは原稿が書けません。
仕方なく友人は、「私の脳内に、人々がイメージしているCをインストールしてでっちあげるわ!」と言い、完全にCさんの発言を捏造し、原稿を仕上げていました。

それからしばらくたってから、「Cさんは性格がきついらしい」という評判をしばしばメディア等で目にするようになり、Cさんの人気が低迷していた時期もありました。
ただ、Cさんはなかなか悪運の強い方で、その後主役を務めたドラマが大ヒットし、今も第一線で活躍されています。

正直、私は「話しやすくない人」のこうした話を聞くのは大好きなのですが、自分自身が取材したいか、話したいか、会いたいかといわれると、残念ながら答えは「NO」です。

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プロフィール

村本篤信
村本篤信

1972年大阪府生まれ。都立国立高校、一橋大学社会学部卒業。大日本印刷に入社後、フリーのライター、編集者に転身。 『3000円投資生活』シリーズ(アスコム/横山光昭)をはじめ、累計250万部以上 の書籍を手がけたほか、取材記事、社史などのライティングを行い、2021年には『ロジカルメモ』(アスコム)を刊行。 2012年に「テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞」優秀賞を受賞して以降は、ドラマや舞台の脚本も執筆。 一方で、90年代よりホラー系ドラァグクイーン「エスムラルダ」として、各種イベント、メディア、舞台公演などに出演し、2018年からは及川眠子・中崎英也のプロデュースにより、ディーヴァ・ユニット「八方不美人」を結成。エスムラルダ名義でのコラムや書籍のライティングも行っている。

著書

話しやすい人になれば人生が変わる

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村本篤信 /
話しやすい人になれば、人づきあいも、仕事も、初対面も、出会いも、家族もぜん...
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