作家の本業と本の販促を連動させるというのは、前回ご紹介したコンサルタントやFCの経営者がやっていたことである。わずかな冊数でも、作家自身が自分の本を購入してくれるのは、出版社にとって迷惑なことではない。作家にとっても、それが本業の販促につながるのであれば、十分費用対効果が見込める、悪くない投資なのである。
本業と本の販促を連動させるというのは、誰にとっても好都合な話のようだが、世の中にはどうも本のテーマと本業がうまく連動しないというケースもある。本は売れているのに、それが、なかなか本業の販促に結びつかないというコンサルタントもいた。
本業は企業の経営改善やシステム改善だが、たまたま出した本は個人向の自己啓発だったという場合には、必ずしも本の読者が作家の本業の顧客とはならない。読者と本業の顧客にミスマッチがあるときには、出版の効果は限定的で終わることがあるのだ。
こういう本業との連動不足型の出版は、概して残念な結果となることが多い。といって、本業のテーマにばかり固執していると、そもそも本にならないという現実もあるので、作家としては難しいところだ。考え方としては、本は一冊で終わるべきものではないので、最初の本は本業とミスマッチでも、数を出すうちに本業と相性のよい本を出せばよいと腹をくくるしかない。少なくとも、本が出ないよりは出たほうがよいのは間違いないのだから。
作家に対する講演のオファーは、本を読んだ読者から舞い込むことが多い。作家の本業が経営改善やシステム改善など、ひとつの企業の中に入り込んで行う仕事であっても、本を出版したことを契機にセミナー講師や講演活動にウィングを広げた人もいる。講演活動を始めると、だいたい講演のほうが主力になるものらしい。かつては企業の指導が仕事ですといっていた人が、いまや講演家となっているのは珍しくない。本と講演は、ビジネスとしては相性のよい組み合わせなのである。
セミナーや講演会は、その場で著書を販売するということもできる。一回あたりの販売数は30~40冊程度であっても、講演会が年間50回なら1500冊~2000冊となる。書店ルート以外に、年間2000冊見込めるというのは悪くない数字だ。もしも、講演回数会が100回近くとなれば、それだけでも重版に至る十分な冊数である。出版社としては、ありがたい作家となるはずだ。
本から講演依頼が入ってきて、講演会で本の販促ができるというのは、作家にとっても出版社にとってもハッピーな好循環といえる。懸念材料としては、講演会のオファーは出版後に急激に件数が伸びることがあるので、講演にエネルギーを費やし、インプットの機会が十分に得られなくなることが挙げられよう。
この点は、作家自身がアウトプットとインプットのバランスを心がけて、自分自身でコントロールするしかない。
次回に続く